Episode8 クレムツ村のジョージの悲しい現実

 私たちは、このクレムツ村に、2日滞在することにした。
 風が強くなるという予報は、高気圧の影響であるから、空は太陽が輝き、スパンと晴れていた。
 見た目では、避難しなくても良さそうな天気だけれど、コーストガードが出している各地の風速を確認してみると、どこもかなりの突風が吹いているようだった。

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 船を留めている桟橋から、建物の壁一面に部族の絵柄が描かれてある伝統的な建物が見えていた。
 船のチェックに来た若いマウンティーが帰ったあと、今度は、浅黒い顔をした地元のオジサンが船にやって来て、その集会場の鍵を管理しているから、見たかったら見せてあげると言う。
 家の窓から、見かけない船が留まっているのが見えたから、村を案内してあげようと思って、わざわざやって来たのだそうだ。
 それは嬉しい。地元民の案内は、とても有意義な時間になる。
 彼の名前は、ジョージ。
 桟橋から見えている建物は、「ビッグハウス」と呼ばれ、このクレムツ村の人たちが、お祝い事の祭りをしたり、ポトラッチ(葬儀)を行ったりする場所だという。彼らの文化を紹介するミュージアムにもなっていた。
 こういった小さな村では、村の案内などから得るチップもまた貴重な収入源になるため、私たちは10ドル札をポケットに用意して、彼に村の案内を頼んだ。

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 ビッグハウスに向かう途中の道で、ジョージは沿岸に浮かんでいるボロボロの小さなボートを指差した。
「君は、日本人だろ?」
「はい、そうですよ」
「あの小舟はね……、日本の津波で流されてきたものだよ。こんなところまで流れてきたんだ」
 遠くのその小舟に目を凝らすと、漢字で船名が書かれてあった。船籍を表す数字もしっかり残っている。
「あの舟の持ち主は、まさかこんな所に流れ着いているとは、知らないだろうね……」と言うと、彼は、
「日本からやって来て、ここで、元気にしているよ」と言った。

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 もしも、舟の持ち主が分かったとしても、この場所は遠過ぎて、持ち帰ることが困難だろう。このまま、クレムツ村で、舟の余生を過ごすのが、いいかもしれないと、私は思った。