Episode7 懐かしい味のオンパレード、ベラベラ村

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 まず、ウーリガンとは、いわゆるキュウリウオのことで、シシャモの仲間である。
 初夏になると、この周辺の沿岸に大量に押し寄せて来て、彼らはそれを大量に捕って、一つ一つ串に通し、天日に干し、その後、煮詰めて、水と分離した油だけを瓶詰めにする。
 いわゆる、キュウリウオの魚油である。

 昔は当たり前のように家族総出で作っていて、彼らの夏の仕事でもあったが、とても大変な作業であるため、今ではウーリガン・グリースを作る人も少なくなったという。
「それに……、今は深刻なほど、ウーリガンが捕れないんだよ」
 と、車椅子に座る長老が、細い声で呟くように言った。
「なぜですか?」
 私はアラスカによく行くが、アラスカの友人たちはみな、このキュウリウオを捕りにいくのを、毎年のように楽しみしている。
 アラスカでは、数が少なくなってきているとは、聞いたことがなかった。
「ロギンだよ……」
 再びその長老は、細い声で呟いた。 
「ロギン?」
 ロギンとは、林業のことである。この西海岸では、もの凄いスピードで、木が伐採されている。
 この海域を航行すると、どこからか切り出してきたログ(丸太)をたくさん浮かべて運んでいるタグボートとすれ違うことが多い。
 美しい景観をもつフィヨルド海域ではあるが、残念なことに、ハゲ山になっているところが実に多いのだ。
  その林業が、林と、その中を流れる川を荒らし、大量の土砂が海に流れ出ることによって、その海域に押し寄せてきていたウーリガンの大群が、来なくなってしまったのだという。
 その貴重なウーリガン・グリースの瓶を手に取ると、私はまたまた思い出した。 
 
 これと同じようなものを、北極海沿岸エスキモーの村で、食べたことがある。
 それは、エスキモーたちの食文化、アザラシの皮下脂肪を保存した、シール・オイルである。
 かつて彼らは、極寒のなかでの肉体労働を課せられるような生活であったことから、「脂質を取る」ということが、命を持続するためには大切だった。

 私は、そのウーリガン・グリースの瓶の蓋を開けてみると、つんと強烈な魚のニオイが鼻を刺激した。
 が、なんだか懐かしい感じもした。
 まるで、日本海に帰ってきたような……。
 居酒屋の、焼いたシシャモや、ホッケ、アジが置かれた食卓に座ったような……。 
 いい、ニオイだった。

つづく

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廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでは「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」(電子書籍化)「アイスブルーの瞳」を連載した。
公式サイトhttp://web-hirokawamasaki.wixsite.com/webmasaki