Episode6 冒険家マッケンジーの謎の終着点
私は、カヤックを浮かべ漂わせていると、ふと思った。
ファン・デ・フカを見落としたキャプテン・クックも、この中途半端な場所で探検の終わりとしたアレグサンダー・マッケンジーも、本当は、冒険家・探検家というよりも、「職業人」だったのだ。
クックの任務は、世界を航海するための海図を作ることであり、マッケンジーの目的は、貿易路のための太平洋に出る可能性を探ることだった。
今の時代の冒険・探検というのは、「好奇心」を満たすとか、横断・縦断・頂点という「達成感」を得るためとか、若者がよくする「自分探し」のためという側面が強い。
けれど、キャプテン・クックやマッケンジーの時代の冒険というのは、誰かがやらなければならない、その時代に必要とされた大仕事だった。
だからクックは、大型帆船の航路に必要な外洋側沿岸部の様子さえ分かれば良かったので、内側航路の可能性を考えていなかったし、マッケンジーは、ピース川が太平洋に流れ出ることを確認できれば、それで良かったのである。
私は、カヤックを後ろ向きに漕ぎ、徐々に遠ざかるマッケンジーの碑を眺めながら船に戻った。
彼らの時代の探検と冒険の姿、そして、今の時代の探検と冒険の姿……。
その違いを、この何もない景色が、私に教えてくれたように思ったのだった。
フィヨルドの海の恵み
船旅では、海から食料を頂くのも楽しみの一つ。その恵みを、毎回紹介いたします。
つづく
廣川まさき(ひろかわ まさき)
ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでは「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」(電子書籍化)と「アイスブルーの瞳」を連載した。
公式サイトhttp://web-hirokawamasaki.wixsite.com/webmasaki