Episode5 日本人はやっぱり、温泉が好きね!

 それにしても、日本人というのは、なぜ温泉が好きなのだろうか?
 次の朝もまた、私はしっかりと朝風呂に入ってから船を出した。
 この日は、少しのんびりぎみに船を走らせ、別の水路内の小さな湾内にアンカリングをする。
 ところが、この湾の中の水深を測ってみると、岸から遠浅が続き、そして、いきなりドン深になるというアンカリングには適していない海底であることが分かった。

 実は、カナダ西海岸からアラスカにかけての沿岸は、潮流が激しく、潮汐差が大きい上に、アラスカから下りて来る気圧団と周囲の山脈から吹き下ろす風によって、小型船舶にとっては非常に厳しい自然条件となるのだ。
 ゆえに、この海域でのアンカリングには、かなりの技術と知識と船の装備が必要となる。
 実は、この海域を航行錨泊するのは、高度なテクニックが要求される海域である。
 日本の「ヨットマン」と呼ばれる人たちの多くは、レースのように帆を操って速く走ることは得意だけれど、アンカリングや沿岸航行ができない人が多いと言われている。
 また、太平洋横断と言うと、まるで大冒険のように聞こえるが、太平洋に出て、北太平洋海流に乗ってしまえば、放っておいてもアメリカ大陸の沿岸に漂着することができる。
 しかし、自然環境の厳しい、この複雑な沿岸部の航行は、暗岩による座礁や、強い潮流による走錨など、様々なリスクが多く、「大海の横断縦断よりも、テクニカルな冒険」であるとも言われているのだ。

 その湾で私たちは、デプスサウンダー(水深計)を使って、何度も何度も、海底の様子を細かく探った。
 熟考を重ね、出した答えは、「やはりこの海底は、一晩安眠できるような確実なアンカリングができる海底ではない」ということだった。
 しかしながら、やりようが無いわけではない。
 緊急時には、どうしても停泊しなければならない時もあるため、アンカリングには、いくつもの方法がある。
 高度なテクニックを要するアンカリングの仕方には、手間がいくつも掛かるが、私たちは、諦めずその準備をすることにした。
 使用するのは、セカンドアンカーと、延長用の鎖など、もろもろ。
 それらの作業をしながら、私はチラリと遠くに視線を流した。
 その瞬間、私の目が、黒く動くものを捉えた。
「?」
 もう一度、視線を戻して、目を凝らしてみる。
 私は視力が弱いので、コックピットに走っていき、双眼鏡を手にして、レンズを覗いてみた。
 すると、
「えええ!」
「げげげ!」
「じぇじぇじぇー」
「ギョギョギョー」
「ぐっ、ぐっ、グ・リ・ズ……」

フィヨルドの海の恵み

船旅では、海から食料を頂くのも楽しみの一つ。その恵みを、毎回紹介いたします。

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つづく

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでは「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」(電子書籍化)「アイスブルーの瞳」を連載した。
公式サイトhttp://web-hirokawamasaki.wixsite.com/webmasaki