Episode4 海洋学者だけの秘密の場所、ハカイ

 そして次の日、信じられないほどのいい天気だった。
 北に上れば上るほど、毎日が雨と曇りで、青空なんて見ることができなかったが、この素晴らしい景観を更に輝かせるように、真っ青な青空が広がっていた。
 こんな日に、こんな天国のような島を、どうして離れられようか?
 早速私は、再びルカを連れてビーチに出掛けることにした。
 砂粒と稚貝の粒を選り分けていた女性が、この日も朝から、地道にやっていた。
 ときどき、研究や観察のための科学者たちが歩いていて、トレイルの途中で出会った女性の学者に声をかけた。
 彼女は、ここで昆布の研究をしているという。ついでに、「ハカイ」というのは、この辺りの先住民族の言葉で、「広い」を表す言葉だということを教えてくれた。
「破壊」ではなく、私の名前の一字、「広い」だったのだ。なんて、いい名前だろう。
 私の気分は上々、ピクニック気分で、どんどんと砂浜を歩いて行く。ルカも嬉しそうに走り回っていた。

[画像のクリックで拡大表示]

 ビーチは、潮がかなり引いていて、ムール貝や綺麗な色のイソギンチャクが顔を出している。
 ルカは、9歳というオジサンではあるが、むき出した岩壁を、難なく登っていく。
 ルカを追いかけるように岩山を登ると、そこは高台へと続き、辺り一帯を見渡せる場所に出た。
 息を飲むほどに素晴らしい空間の広がりに、思わず、石川五右衛門の名文句、「絶景かな、絶景かな」という言葉が思い浮かぶ。
 深呼吸をして、大手を広げて、また深呼吸をする。
 しばらくその高台に腰を下ろし、風景を堪能した。
 なんだかしんみり自分の人生などを顧みて、友人たちの顔を思い出し、いろんな思い出にふけり、そして、また青い空と海を眺めて、私は立ち上がった。
「ルカ、帰るよ」
 そう言って岩を降りていくと、突然、私は目を見開いた。
「しまった!」
 潮が満ちているのである。
 歩いてきたビーチが、すでに水に浸かっていた。
 私とルカは、完全に巨岩の上で孤立してしまったのだった……。

フィヨルドの海の恵み

船旅では、海から食料を頂くのも楽しみの一つ。その恵みを、毎回紹介いたします。

[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]

つづく

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでは「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」(電子書籍化)「アイスブルーの瞳」を連載した。
公式サイトhttp://web-hirokawamasaki.wixsite.com/webmasaki