Episode4 海洋学者だけの秘密の場所、ハカイ

 翌朝、再び早朝に出航する。
 錨泊している大陸側の入り江から、ハカイ海洋保護区となっている向かい側のキャルバート島へ渡る。
 この渡る海峡もまた幅が広く、クィーンシャーロット海峡とも距離が離れていないため、太平洋のうねりが再び入ってきて、船が翻弄された。
 そのうねりにウンザリしながらも、ハカイへと続くキャルバート島とヘケート島の間の細い水路に入っていくと、その奥はうねりが届かない穏やかな場所だった。
 遠くに、立派な施設と桟橋が見えてきた。
 その桟橋は、一般の船には使用を認めていないので、近くにアンカリングをする。
 ゴムボートで上陸してみると、島の入り口には、「ハカイ生物学研究所」と書かれてあった。
 私はその看板を見て、ますます怪しく思った。本当に生物兵器を作っているのでは?
 というのも、実は私は、第二次世界大戦時に、離島などで秘密裏に行われていた化学兵器の開発にまつわる書籍などを読んでいたため、勝手な想像がどんどんと膨らんでいたのだった。
 これは、毎日、海と島という単調な景色ばかり見ていたため、脳が勝手に想像して、興奮しているのである。
 ところが、その島の雰囲気は、当たり前だが、怪しいものが一切無い。無いどころか、研究施設の建物が、高原のペンションのような建物で、平和な雰囲気が静かに漂っていた。

 私は、即座にアホな想像を打ち消して、心軽やかに桟橋を歩いていると、その桟橋の先で、ど近眼のように目を近づけて、トレイの中の砂粒をピンセットで、一粒ずつ摘み上げている若い女性を発見した。

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 声をかけてみると、彼女は海洋学の学生で、コップですくってきた海岸の砂の中に、何粒の稚貝がいるかを確認中なのだと言う。
 それは、見ているだけでも、もの凄く地道な作業だった。
 宿泊兼研究所となっているらしい建物の奥に行くと、まるで藪に囲まれたトンネルのようなトレイルの入り口を見つけて、
 ルカのリードを外して歩いていく。
 すると、ほどなくして、視界がどーんと広がるビーチに出た。
 その光景は、圧巻だった。ぽっかりと口を開けて、しばらく立ち尽くしてしまうほどに、素晴らしいビーチである。
 私のビーチ経験はあまりないが、「こんなに綺麗なビーチを見たことがない!」と言うくらいに息を飲む美しさだった。
 これを海洋学者たちだけで、独り占めしていたなんて!

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