第3回 ゴマの歴史は5000年、料理にも菓子作りにも

 フランスやオーストリアのパティシエ、北欧やドイツのパン職人、感謝祭のごちそうを用意するお母さん、クリスマスディナーの準備に忙しいおばあちゃん――彼らに必要不可欠となるのが、甘い香りを放つ「スイートスパイス」だ。メキシコや地中海、中東やインドやアジアのエスニック料理、そのどれもが格別においしい理由も、スパイスが入っているからにほかならない。

 世界で一番愛されている甘い味と言えば、チョコレートとバニラが双璧であることに異を唱える人はいないだろう。今では想像しがたいことだが、16世紀にヨーロッパ人がアメリカ大陸の料理を知るまで、カカオもバニラも、ヨーロッパではまったく知られていなかった。

 コロンブスはスパイスを求めて航海に出たが、後継者であるスペイン人の征服者たちの「新大陸」での目的は黄金だった。この目的を達成することはできなかったが、代わりに黄金と同等の価値をもつバニラ、カカオ、オールスパイス、辛いカイエンヌなどヨーロッパでは未知のスパイスを知る。スパイスの取り合いは戦争まで引き起こした。

スパイスの効いたチェリーパイ。オールスパイスやシナモンなどのスパイスはフルーツパイの味に深みをそえる。(写真:Maria Komar/Shutterstock.com)
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 ところで、考古学の調査によると、人類が使った最古のスイートスパイスと考えられるものの一つがアニスで、古代エジプト期以前から調理に、そして薬剤、香料として使われていた。シナモンも最古のスイートスパイスの一つで、古代エジプト人は防腐剤として、モーゼは聖油として使った。

花を咲かせるゴマは、その種子を採取するために栽培される。風味豊かなゴマの種子と油は、料理に欠かせない。(写真:Elena Schweitzer/Shutterstock.com)
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 ほかにもある。ゴマは5000年間も調味料として使われている。人類が用いる一番古い香味料の一つと言え、有史以前から熱帯地方で栽培されていたことがわかっている。初期エジプト文明の墓絵にはパン商人がパン生地に、ゴマの種子を加えている風景が描かれている。また、油を採取するために栽培された作物の中でも一番古い部類に属する。

 紀元前3000年頃、中国ではゴマ油を燃やして、できた煤(すす)を版画に使った。木の実のような味とパリッとした歯ごたえが好まれ、多くの料理に使われるが、ゴマは健康に良い作用があることでも知られている。

アロマテラピーで精油を薄めるために使うオイルは「キャリアオイル」と呼ばれる。ゴマ油はよく使われるキャリアオイルだ。(写真:Olyina/Shutterstock.com)
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 ゴマは何千年にもわたって、パンや菓子、肉や野菜料理、各種のソース、ドレッシング、デザートに使われてきた。今ではケーキやマフィンに加えたり、ローストチキンやブロッコリーの上に醤油ソースと一緒にふりかけたり、ビネグレットソースに加えたりする料理が人気を呼んでいる。

 ゴマは中東料理の主要食料の一つであり、フムスや人気菓子ハルヴァの材料であるタヒニペーストに用いられる。アジアやインド各地で種子の状態でも、ペースト状でも料理に使う。ゴマ油は長期間保存できることもあり貴重な食材だ。

 また、ゴマの栄養価は非常に高く、銅、マンガン、カルシウム、マグネシウム、鉄、セレン、リン、亜鉛、ビタミンB1、ナイアシン、食物繊維などが含まれている。

ゴマの花は白か薄いピンク。花は繊維質の多い房となり、それぞれの中に小さく、平らな、先の尖った種が8列並んでいる。(写真:Chuyu/Dreamstime.com)
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 ゴマは、古来、治療にも予防にも用いられてきた。古代エジプトの医者は、ことあるごとにゴマを処方し、古代バビロンの女性は若さと美しさを保つためにハチミツとゴマを合わせたものを摂ったとされる。古代ローマの兵士も、同じものを体力維持と活力アップのために食べた。現在も、健康食料品としてのゴマ人気は衰えを知らない。

 ゴマには、食物繊維リグナンが含まれていて、これには「セサミン」と「セサモリン」という二つの抗酸化物質が含まれている。セサミンやセサモリンは、コレステロール値を下げる働きをし、高血圧の予防が期待できる。またセサミンは活性酸素などのフリーラジカルによる肝障害から守る効果が期待されている。

 ちなみに、『アリババと40人の盗賊』に登場する「開けゴマ!」という魔法の言葉は、成熟したゴマのさやが開くことに関連するという説がある。

ゴマのレシピ:ハチミツ・ゴマ・ピーナツクッキー

ハチミツとゴマ、ピーナツを使ったクッキーを召し上がれ。(写真:Africa Studio/Shutterstock.com)
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 簡単に作れるカリカリとしたスナックのレシピを紹介しよう。ナッツの風味とハチミツの甘さが絶妙にマッチする。

 まず、オーブンを175度に熱しておく。天板の上にクッキングシートを敷き、この上にピーナツを乗せて5分間ローストしよう。揺すってさらに5分ローストする。ピーナツをローストしている間、ハチミツと黒砂糖を小さな鍋に入れ、中火で砂糖を溶かす。ピーナツの上に溶けたハチミツを流し、材料が行き渡るようもう一度天板を揺する。ピーナツを覆うようにゴマをふりかけよう。5~10分オーブンで焼き、取り出して冷ます。完全に冷めたら密封容器で保存する。

【材料】ゴマ・・・1/4カップ、ハチミツ・・・1/2カップ、ピーナツ・・・2カップ、黒砂糖・・・大さじ2杯

※本連載は書籍『ハーブ&スパイス大事典』の一部を抜粋、再構成したものです


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