第2回 “薬”としてのハーブ、二日酔いにミルクシスル

 何かを食べて具合が悪くなったとき、ある植物を口にしたら回復した――私たち人類は、はるか昔に、こうした経験を繰り返してハーブの知識を身に付けていったのだろう。たとえば、犬や猫などの動物が葉や草を食べて腹の不調を治すような行動を観察して、それを学んでいったのかもしれない。

薬草は自然からの恵み。メディカルハーブの研究は、文明の黎明期には始まっていたとみられる。(写真:Chamille White/Shutterstock.com)
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 病気の予防や症状の緩和に役立つハーブ、すなわち「メディカルハーブ」の研究は、文明の黎明期には多くの地域で始まっていたと考えられている。古代インドの聖典である『リグ・ヴェーダ』の中にも、数百種の薬草とその使用法がまとめられている。この分野に関する最古の書物の一つとして知られ、その編纂時期は紀元前10世紀よりも前と考えられている。

 数多くのハーブが伝統的な自然療法や民間療法で用いられ、その知識が受け継がれてきたが、現代の医学的な研究によって、その効果が実証されつつあるものもある。

2000年以上も薬草として用いられてきたミルクシスル。肝臓を守る効果は折り紙つき。(写真:Sikth/Dreamstime.com)
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 ミルクシスルはその一例だ。民間療法では2000年以上も前から肝臓を守るためにミルクシスルが利用されてきたが、1960年代にドイツで行われた研究で、肝臓疾患の治療に効果があることが再認識された。

 ミルクシスルの種子には、シリマリンというフラボノイド複合体が含まれており、このエキス剤が肝障害の回復や疾患の予防の両方に有用であることが、40年にわたる研究で立証されている。肝硬変、肝炎、胆石、脂肪肝などの疾患や、さらに中毒の治療にも有用である(今でもミルクシスルは、タマゴテングタケやシロタマゴテングタケを含む、テングタケ属のキノコの毒に対する解毒剤として利用されている)。

 ある臨床研究では、トルエンとキシレンの有毒ガスに5~20年間暴露された作業員にシリマリン80%を投与したところ、プラセボ(偽薬)を服用した対照群と比較して、投与した全員に著しい肝機能向上と血小板数の増加が認められた。またシリマリンは、統合失調症や双極性障害の治療のために数種類の「向精神薬」を服用している患者に見られる薬物性の肝障害を軽減することもわかっている。

 2010年には、化学療法で治療中の子どもの肝疾患患者50人にミルクシスルとプラセボを用いた二重盲検試験を実施したところ、薬でダメージを受けた肝臓がミルクシスルで改善したとする報告が、医学誌『Cancer』に掲載された。シリマリンは原発性胆汁性肝硬変の治療にも利用でき、また強迫神経症の治療で選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ剤としても有用な可能性がある。

ミルクシスルは、乾燥した岩の多い荒れた土地で育つ。また、牧草地と放牧地にも、密集して生える。(写真:Artefficient/Shutterstock.com)
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 棘があるが、ミルクシスルは食べることもできる。根は生か、茹でてバターとからめる、あるいは半茹でにしてあぶり焼きにする。春には、柔らかい新芽が出るので、根元から切ってその「毛羽」を揉み落としてから茹でてバターをからめるといい。茎は皮をむくか、一晩漬け置いて苦みを取ってから煮込むようにする。葉はチクチクするところを切って茹でれば、ほうれん草の代用品にもなる。

 ちなみに、古代ケルト人のミルクシスルの花言葉は「性格の高潔さ」である。作家のテッド・ヒューズやヒュー・マクダーミッド、レフ・トルストイやA.A.ミルンの作品にもミルクシスルが登場する。『くまのプーさん』ではロバのイーヨーの好物だ。

ミルクシスルのレシピ:二日酔い用スムージー

 ミルクシスルの人気が高まった理由の一つに、飲酒する前の晩に飲んでおけば、二日酔いの症状を防げると期待されたことがあった。これは、かなり信頼性がある。というのも、ミルクシスルは、アルコールなどの毒から肝臓を守る働きがあるし、重要なろ過組織の新しい細胞の生成も促進するからだ。繁華街で夜を過ごす前は、ミルクシスルを1タブレット飲み、家に帰ってもう一つ飲むようにしよう。さらに「二日酔い用スムージー」を作り、飲酒した日の翌朝に飲むのもいいだろう。オーツ麦、バナナ、ドライタイプのミルクシスルの種子、バニラパウダー、アーモンドミルクなどをミキサーで混ぜ合わせて作ろう。

ミルクシスルのスムージー。二日酔いの緩和を期待できる(写真:Alliance/Shutterstock.com)
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【材料】オーツ麦・・・1/2カップ、バナナ・・・1本、ドライタイプのミルクシスルの種子・・・小さじ1杯、バニラパウダー・・・小さじ1/2、アーモンドミルク(あるいは乳成分を含まない牛乳の代わりの飲料)・・・2カップ

 なお、いかなるハーブやスパイスも、過剰摂取は危険を伴うので十分に注意したい。必要に応じて、かかりつけの医師に相談してから摂るようにしよう。処方中の薬と合わなかったり、相互作用がおきて危険なレベルに達したりする可能性も否定できないからだ。

※本連載は書籍『ハーブ&スパイス大事典』の一部を抜粋、再構成したものです


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