「葬儀写真集には遺影も使われていますが、そこに何年何月と時間のキャプションがありました。もともと、葬儀写真集にはモデルがあって、江戸時代からある葬儀絵巻なんです。それが、写真を使うことで少しずつ違ったものになっていくわけです。そして、大正期になると、その時間のキャプションが落ちるんです。つまり、ある意味、生前から葬儀までも時系列を記録に残すことが、追善の目的だったのに、そこからいつの時点の写真かという情報が落ちる」

 古くからの葬儀絵巻というのが気になるが、とにかくここは先へ。

「時系列を入れるっていうのは、あくまでも生前の一記録なんですよ。で、時系列がとれると、生前の一シーンではなくて、死者、人格そのものを表象する姿。それは、ある意味、死後の存在に変わっていくわけですね。要するに、死んだ後もこの人がこういう形でいるんだって、生前の記憶をベースとしたもの。そうすると、そこで遺影を見つめる視線が、実は変わる。死者を見つめることになる」

 昔の写真だったものが、生前の記憶をべースにしたその死者の人格を表象するものへと変化すれば、すなわち、遺影の誕生だ。

 遺影はただの写真ではない。なにか、亡くなった当人の「すべて」につながるよすがとしてそこにあって、ぼくたちは、やっぱり語りかけてしまったりするものだ。今、ぼくたちは葬儀やそれに類する場、そして、仏壇などに写真が立ててあると、遺影だろうと認識する。頭の中に遺影に対する振る舞いの回路ができていて、そこにすとんと落ち着く。

大正15年に亡くなった15代住友家当主である住友友純(ともいと)の葬儀写真集より。すでに遺影が飾られていた。
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 遺影である画像と、遺影ではないものの違いについて、山田さんはこんなエピソードを紹介してくれた。

「最近、面白いなと思ったのは、動画なんです。都内のホテルで行われたある会社の社葬の後の追悼パーティでのことです。16面のマルチビジョンに、亡くなった創業者の静止画が映されました。そうすると、経団連とか関係者のスピーチは、画面に向かってやるんです。つまり、遺影として見てるんです。ところが、途中で動画に変わっちゃった。すると、2人目の人は、今度は聴衆に向かって話し出した。ところが、途中でまた静止画に変わっちゃうと、ああーみたいな感じで迷って。で、3番目の人は、また静止画の方を向いて話し始めたんですが、途中で動画に変わっちゃったら、何かすごい居心地が悪いみたいで……」

 動画が死者の表象になりうるかどうか、というのは、また別のテーマかもしれない。とにかく、静止した写真はただ記録を超えて、死んだ人を表す表象になった。ぼくらはそう受け入れている。こういうことは、今、ぼくたちは当たり前に思っていても、実は時間とともに変わり続けている。

 次回、山田さんが企画して作った国立歴史民俗博物館の常設展を歩きつつ、このあまりにも大きな議論の締め、としよう。

最終回は「民俗」をテーマにした国立歴史民俗博物館の第4展示室へ。
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つづく

山田慎也(やまだ しんや)

1968年、千葉県生まれ。国立歴史民俗博物館准教授および総合研究大学院大学准教授を併任。社会学博士。専攻は民俗学。葬送儀礼の近代化と死生観の変容を主な研究テーマとする。1992年、慶応義塾大法学部法律学科卒業。1997年、慶応義塾大大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学後、国立民族学博物館COE研究員、国立歴史民俗博物館民俗研究部助手を経て、平成19年8月に現職となる。単著に『現代日本の死と葬儀 葬祭業の展開と死生観の変容』(東京大学出版会)、共編著に『変容する死の文化 現代東アジアの葬送と墓制』(東京大学出版会)、『冠婚葬祭の歴史』(水曜社)、『近代化のなかの誕生と死』(岩田書院)などがある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、知っているようで知らない声優たちの世界に光をあてたリアルな青春お仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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