『冠婚葬祭入門』は大ヒットし、続編も刊行された。
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「個人化によって伝承を受け継ぐ共同体がなくなり、マニュアルに頼っていくようになる。現代人にとって実はマニュアルっていうのはすごい重要で、すでに高度経済成長期には地域共同体が解体していくので、1970年代以降冠婚葬祭のマニュアルが、すごく大ヒットするんですよね。『冠婚葬祭入門』(塩月弥栄子著)は、1年で100何刷も出た。それ以降多様なマニュアルがさまざまな出版社から出されるようになり、今の40代から30代にかけての人たちは、ますますマニュアルに依存するようになる。例えば出産の儀礼とか、お宮参りとか、お節句とかをそれを通して実践するようになる。要するにまず実践しなきゃいけないのが葬儀よりもそっちの方が先ですからね」

 もう一点、山田さんがぽろりと漏らした。

「うちの祖母が亡くなったときのことです。私にとって衝撃的なことだったんですが、いよいよ出棺ってときに、祖母の姪が、一生懸命、棺桶の中の死んだ祖母の耳もとに携帯電話をあてるんですよ。すごい不思議だったんですけど、『お母さん、聞いてる? おばさん、これから出棺だから、おばさんに声かけてやってよ』って携帯に向かって言うんです。自分の母親、つまり私の祖母の妹も足が悪くて来られないので、携帯を使って声掛けさせようとしていたわけです。端から見ると奇妙なんですけど、死者に声をかけるってこと自体は、我々は当たり前にやってるわけですよね。機械を使ってやったときに、何か奇妙な感覚なんだけども、死者に対してそういうことをやるっていうメンタリティっていうのは変わっていないし、重要なのかなと思って。それがすごい印象に残ってます」

 この挿話を聞いた時、ぼくは「結局、過去のものを再編成しながらやるしかない」と山田さんが言ったことを思い出した。送ることも・送られることも、新しい技術に、昔からのメンタリティを盛り込んでできることもあるのかもしれない、と。

「民俗」をテーマにした博物館第4展示室の「家族の変容」というコーナー。家族とその生活について、おもに商品化とマニュアル化とのかかわりを中心に紹介している。山田さんが深く関わった2013年3月のリニューアルでは、葬儀と同じように、今の生活のなかから過去とのつながりをひもとく展示が増えた。
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つづく

山田慎也(やまだ しんや)

1968年、千葉県生まれ。国立歴史民俗博物館准教授および総合研究大学院大学准教授を併任。社会学博士。専攻は民俗学。葬送儀礼の近代化と死生観の変容を主な研究テーマとする。1992年、慶応義塾大法学部法律学科卒業。1997年、慶応義塾大大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学後、国立民族学博物館COE研究員、国立歴史民俗博物館民俗研究部助手を経て、平成19年8月に現職となる。単著に『現代日本の死と葬儀 葬祭業の展開と死生観の変容』(東京大学出版会)、共編著に『変容する死の文化 現代東アジアの葬送と墓制』(東京大学出版会)、『冠婚葬祭の歴史』(水曜社)、『近代化のなかの誕生と死』(岩田書院)などがある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、知っているようで知らない声優たちの世界に光をあてたリアルな青春お仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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