河村さんとの対話は4時間近くに及んだ。

 話し終えて、ふうっと深呼吸した。

 色覚研究の深い世界を垣間見るとこができて、それ自体、好奇心を掻き立てられた。本当に、この世界は底知れず、興味深い。それに加えて、河村さんが最先端の研究を通じて感得した多様性への思いに、深く共鳴し、胸が熱くなった。

 そして、そんなぼくに対して、河村さんは、スライドに記されたすでに公になった研究とは別のことも、さらに熱を込めて語ってくださるのだ。つまり、現在進行形の研究について。

「今後、これまでの魚類と霊長類のオプシン研究(色覚研究)を基盤に、嗅覚や味覚へと研究を広げていこうとしているところです。野生のフィールドに出て、色覚だけではなく、他の感覚との統合が大事だと感じまして。だから、新世界ザルの同じサンプルを使って嗅覚や味覚の遺伝子の多様性を調べたり、サルたちが食べている森の果実の匂い成分を調べたりしているんですよ」

 嗅覚や味覚にかかわる遺伝子は、色覚とは比較にならないほど複雑で、これまでなかなか手を出せなかったそうなのだが、今は次世代シーケンサーに代表される新技術で、複雑なものを複雑なまままとめて扱う研究もできるようになっている。色覚を通じてフィールドとラボをつないだ河村さんの研究が、さらに幅広く深く進むための道具が追いついてきたともいえる。

 遠からず成果が続々報告されそうだ。

 引き続き、楽しみに待とう!

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おわり

河村正二(かわむら しょうじ)

1962年、長崎県生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻・人類進化システム分野教授。理学博士。1986年、東京大学理学部卒業。1991年、東京大学大学院理学系研究科人類学専攻博士課程を修了。その後、東京大学および米国シラキュース大学での博士研究員、東京大学大学院理学系研究科助手などを経て、2010年より現職。魚類と霊長類、特に南米の新世界ザルを中心に、脊椎動物の色覚の進化をテーマに研究している。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、知っているようで知らない声優たちの世界に光をあてたリアルな青春お仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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