第5回 ヒトのような色覚多型を野生のサルで発見!

「新世界ザルは色覚がオスとメスで違っていて、メスの中でもさらに違っているんです。それが行動の違いにも反映しているかもしれないという話をして、それは、面白い! と言ってもらえたんです。でも、最初は、相手も半信半疑でした。オプシンの遺伝子を見るには、糞のサンプルがあればいいんですが、そもそも、そんなに採れるのかと。彼らも観察している群れの血縁関係とかを知るのに糞サンプルを採っていたんですが、そんなにたくさん集まらないというのが実感だったみたいです。だから、どれくらい集められるのか、集めたところでどれくらいDNAが抽出できて、ちゃんと遺伝子を増やせるのか、増えたところでオプシンの多様性はあるのかとか、何段階もの疑問はあったんだけれども『1回試しに来るだけ来てください』ということで、行ってきました。2003年7月ですね」

 河村さんたちも、ニホンザルなどの糞からDNAを採る練習をして、問題なく抽出できることがわかっていて、では実際に新世界ザルをやってみたらどうなるか、という挑戦だった。

捕獲の必要や生体を傷つける恐れがないため、野生の哺乳類からDNAを採る場合、糞や毛を用いることが多い。(画像提供:河村正二)
捕獲の必要や生体を傷つける恐れがないため、野生の哺乳類からDNAを採る場合、糞や毛を用いることが多い。(画像提供:河村正二)
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「それが、わりと採れたんですよ。行動観察をしている人はそれに専念していて、その合間に糞を採っているんだけれど、こっちは糞を採るだけなので、一緒について行って、あ、糞したと言っては、そのたびに行って集めて回る。やっぱり、専念する人間がいると採れるんですね。たった1週間で、オマキザルもクモザルもそれぞれ20くらいは採れて、彼らも『へえっ、いっぱいとれますね』という感じでしたね。それで日本で分析してみたら、DNAはちゃんとあると。それでオプシンの遺伝子をPCRという方法で増やして、実際に多様性があるとわかりました。これで向こうも俄然やる気が違ってきて。それから、かなり緊密な共同研究体制ができて、僕の研究歴の中でも非常にうまくいっている共同研究です」

 新世界ザル、この場合、オマキザルとクモザルでは、同じ群れの中に、複数の種類の色覚を持った個体が混ざっている。以前から、色覚多型があることは知られていたが、それらが、例えば地域個体群ごとに違うのではなく、同じ場所で暮らしている群れの中にすべてのバリエーションが見られることが分かった。これは、河村さんたちの発見の「その1」である。

円グラフが各地域の個体群のなかにおけるオプシンの多様性を示している。色覚多型が維持されている群れが野生のなかに本当にあった! これらの多型に関する解説は次ページで。(画像提供:河村正二)
円グラフが各地域の個体群のなかにおけるオプシンの多様性を示している。色覚多型が維持されている群れが野生のなかに本当にあった! これらの多型に関する解説は次ページで。(画像提供:河村正二)
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