第3回 魚の色覚はすごい!

ゼブラフィッシュの眼球を縦に切ったときの断面図。上を見る網膜と下を見る部分でオプシンの吸収波長が微妙に異なる。(画像提供:河村正二)
[画像のクリックで拡大表示]

「魚の眼球の断面で見て、おおまかに当てはめると、こんな感じになっているんです。網膜の腹側(下側)、つまり上を見る視角ですね。それがより長波長のオプシンのサブタイプを使っていると。一方で、より短波長のやつは背側(上側)で、下を見る視角に使っている。つまり、見る角度によって色覚を変えていると。このほかに紫外線オプシンや青オプシンを持っているので、ゼブラフィッシュは基本、4色型なんですね。でも、その構成要素を変えているということで、違う4色型にしているわけですね」

 いやあ、これは意表を突かれた。

 言われてみれば、たしかに意味があるような気がする。水の中を泳ぐ魚にしてみると、水面方向と水底方向では、まったく光の環境が違う。それぞれ違うセンサーのセットを使って見るのは、理にかなっているかもしれない。ただし、なぜこういう分かれ方をしているのか、どれくらい魚類の中で普遍的なのかはまだよくわかっておらず、これも合理的な説明を探さなければならない、という状況だそうだ。

 河村さんの研究チームは、どうしてこのような発現の仕方になるのか、メカニズム的な部分については、きれいに解き明かしている。「PNAS(米国科学アカデミー紀要)」という著名雑誌に論文が掲載されたほどの良い研究成果なのだが、正直、この連載の水準で追いかけるのはちょっと困難だ。思い切りざっくり言うと、遺伝子の発現を制御する「エンハンサー」の場所を特定し、わずか500の塩基配列にまで追い詰めたというに留める。

「ゼブラフィッシュやメダカの研究では、僕が研究室を構えた初期から、知念秋人くん、武智正樹くん、松本圭史くん、そして辻村太郎くんといったやる気のある優秀な学生たちが来てくれたおかげで、すごく進んだということを述べさせてください」と河村さんは付け加えた。

 彼らは、ここまでの研究に心血を注いだ、河村研究室のレジェンド的な存在なのだそうだ。

ゼブラフィッシュの飼育室。手前にある顕微鏡はDNA導入用。
[画像のクリックで拡大表示]

つづく

河村正二(かわむら しょうじ)

1962年、長崎県生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻・人類進化システム分野教授。理学博士。1986年、東京大学理学部卒業。1991年、東京大学大学院理学系研究科人類学専攻博士課程を修了。その後、東京大学および米国シラキュース大学での博士研究員、東京大学大学院理学系研究科助手などを経て、2010年より現職。魚類と霊長類、特に南米の新世界ザルを中心に、脊椎動物の色覚の進化をテーマに研究している。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、知っているようで知らない声優たちの世界に光をあてたリアルな青春お仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。