第1回 色覚はなぜ、どのように進化してきたのか

「視物質は、オプシンと呼ばれるタンパク質と、レチナールと呼ばれる色素の組み合わせでできているんです。これは、生命の歴史の中で、光を感じる仕組みとして、かなり普遍的なものです」

棹体細胞にある視物質「ロドプシン」の構造。ロドプシンはオプシンとレチナールからなり、らせん状で色のついた部分がオプシン。By S. Jahnichen (Own work) [Public domain], via Wikimedia Commons
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 網膜→視細胞(桿体と錐体)→視物質とだんだん細かく見てきて、今、視物質がオプシン(タンパク質)と色素(レチナール)の組み合わせでできているとわかった。ぼくたちの視覚の基礎になる「光を捉える」仕組みは、このタンパク質と色素の働きによる。

 さて、タンパク質と色素のコンビはどのように光を受けるのか。

「タンパク質オプシンの中に、色素レチナールが組み込まれています。レチナールは光を受けるとぱっとすばやく構造が変化して、オプシンがそれを刺激として構造変化を起こすんです。それを引き金に一連の情報伝達系が活性化されて、最終的に視細胞全体が『過分極』します。つまり、視細胞が興奮した状態になります。それが電気刺激となって、最終的に脳に行って『光が来たぞ』ということが分かるわけです」

光を吸収したときのレチナールの変化。「ものが見える」起点はこの小さな物質のわずかな変化にすぎない。(画像提供:河村正二)

 光を受ける→色素(レチナール)が構造変化→タンパク質オプシンが構造変化→視細胞(桿体や錐体)が興奮→神経伝達→脳が「光が来た」と知る。

 こういう流れだ。

 実は、色素レチナールは、ビタミンAから合成されるもので、脊椎動物ではだいたい同じものが使われている(ビタミンAのわずかな種類の違いはある)。

 一方、タンパク質オプシンは、様々なバリエーションがある。人間の錐体細胞に赤・緑・青に対応する3種類があるのは、視物質の色素レチナールではなく、タンパク質オプシンの違いによる。だからここから先、錐体に使われているオプシンの違いを見ていくことが、色覚について考えるキモとなるのだった。

 今回は、ここまで。次回は、さらに色覚の仕組みを学んでいく。それを終えると一気に「視野」が開ける予定。乞うご期待。

つづく

河村正二(かわむら しょうじ)

1962年、長崎県生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻・人類進化システム分野教授。理学博士。1986年、東京大学理学部卒業。1991年、東京大学大学院理学系研究科人類学専攻博士課程を修了。その後、東京大学および米国シラキュース大学での博士研究員、東京大学大学院理学系研究科助手などを経て、2010年より現職。魚類と霊長類、特に南米の新世界ザルを中心に、脊椎動物の色覚の進化をテーマに研究している。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』(BOOK☆WALKER)、夏休みに少年たちが川を舞台に冒険を繰り広げる『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。近著は、先端科学にもとづく新たな色覚観を切りひらく『「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論』(筑摩書房)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。