ガラガラヘビには、私もある意味「慣れている」。私が通ったワイオミング大学のある米国ワイオミング州でも、ガラガラヘビを頻繁に見た。フィールドを歩いていると、「シャー」という音がする。立ち止まって周りを見渡すと、地面と色が同化したガラガラヘビがこちらを威嚇している、ということがよくあった。「ガラガラ」という音よりも、「シャー」という乾いた音だ。威嚇というよりは、警告してくることが多いので、音が鳴ったら立ち止まって、そのヘビの位置を確認すれば、襲われることはほぼない(と私は思う)。

良い標本でも喜ばない

 第1発見者のスコットは私たちよりも先に歩き出し、GPSユニットを片手に、頭骨が見つかった現場に向かう。「そんなに遠くないよ。700メートルくらいだね」
 スコットはさっそうと緩やかな斜面をしばらく下り、手に持ったスコップを地面に突き刺して、足を止めた。足元に広がる急な崖が、彼の行く手を遮っていた。「おかしいな、簡単に見つかると思ったんだけど・・・。みんなはここで待ってて」

 そう言い残して、スコットは早歩きで崖を下りだした。そんなに焦らなくてもいいのにと思って見ていると、スコットはあっという間に崖の下にたどり着き、まるで早送りを見ているかのように、頭骨の見つかった場所に一目散に向かって行った。

「フィル、あれがそうなの? 遠くから見ると全然わからないね」
「ああ、発見した頭骨にジャケット(化石を取り囲む母岩から露出した骨化石を、壊さずに運び出すために作るもの)をかけたんだけど、そのままにしておくと目立ってしまう。盗掘に遭わないように、崖とほぼ同じ色の麻袋をかぶせて、土砂をかけたんだ。GPSユニットがないとわからないよ」

 スコットを追うように、私たちもゆっくりと崖を降りていった。

セントロサウルスの頭骨を発見した現場(左の矢印)に向かうスコット(右の矢印)。
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「これがそうだよ」。私たちがたどり着くと、スコットは自慢げに言った。

 かぶせてある土砂をみんなで注意深くどかし、麻袋をめくる。すると、白い岩の固まりのようなものが見えた。ジャケットだ。ジャケットの形から、セントロサウルスの角の形がよくわかる。

「良い標本だね! こんなにすごい頭骨なのに、みんな発掘したくないなんて」
「セントロサウルスはたくさん見つかっているから。どんなに良い標本でも、たくさん見つかっていると重要性が落ちるんだ。セントロサウルスの頭骨だと、みんな喜ばないんだよね」

 さっきまで自慢げな様子だったスコットは、フィルの方をチラッと見ながら言った。

小林 快次(こばやし よしつぐ)

1971年、福井県生まれ。1995年、米国ワイオミング大学地質学地球物理学科卒業。2004年、米国サザンメソジスト大学地球科学科で博士号取得。現在、北海道大学総合博物館准教授、大阪大学総合学術博物館招聘准教授。モンゴルや中国、米国アラスカ州、カナダなど海外での発掘調査を精力的に行い、世界の恐竜研究の最前線で活躍中。著編書に『恐竜時代I 起源から巨大化へ』『日本恐竜探検隊』(以上、岩波書店)、『モンゴル大恐竜 ゴビ砂漠の大型恐竜と鳥類の進化』『ワニと恐竜の共存 巨大ワニと恐竜の世界』(以上、北海道大学出版会)など、監修書に『大人のための「恐竜学」』(祥伝社)、『そして恐竜は鳥になった 最新研究で迫る進化の謎』(誠文堂新光社)など多数。

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