第10回 ゴビ砂漠でテントを張るべき場所

 今年、私は希望通り、メインキャンプから少し離れた崖の中腹に、テントを張ることができた。我ながら良い場所に張れたと思う。

メインキャンプから少し離れた場所に張った、私のテント。
メインキャンプから少し離れた場所に張った、私のテント。
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 すると、一緒に参加している韓国チームのリーダーで、私のサイエンティフィックな兄弟でもある韓国人研究者のイ・ユンナム(8月の調査の時点では韓国地質資源研究院所属、現在はソウル大学教授。詳しくは第2回を参照)が、私のテントに近寄ってきた。
 「ヨシ、良いところにテントを張ったね。今年の調査も楽しみだ。このキャンプに広がる露頭(地層や岩石が土壌や植生に覆われず、直接地表に現れている場所)もたくさん恐竜化石が出そうだし。明日はみんなでここを調査しよう!」

 「ゴメン。俺はここじゃなくて、ここから西に30キロほど離れているジャブクラントに行って、あの営巣地の調査をするよ。とにかく今年で終えたいんだ」
 私はため息をつきながら答えた。おいしそうなキャンディーを目の前にして、お預けを食らったような気分だ。

 「あの営巣地」とは、2011年8月の調査の最終日に見つけた、恐竜の卵の化石を大量に産出した「恐竜の巣」のこと(詳しくは前回を参照)。あの調査を終えなければならない。そして、その重要性を世の中に伝えなければならない。私は自分にそう言い聞かせた。

つづく

小林 快次(こばやし よしつぐ)

1971年、福井県生まれ。1995年、米国ワイオミング大学地質学地球物理学科卒業。2004年、米国サザンメソジスト大学地球科学科で博士号取得。現在、北海道大学総合博物館准教授、大阪大学総合学術博物館招聘准教授。モンゴルや中国、米国アラスカ州、カナダなど海外での発掘調査を精力的に行い、世界の恐竜研究の最前線で活躍中。著編書に『恐竜時代I 起源から巨大化へ』『日本恐竜探検隊』(以上、岩波書店)、『モンゴル大恐竜 ゴビ砂漠の大型恐竜と鳥類の進化』『ワニと恐竜の共存 巨大ワニと恐竜の世界』(以上、北海道大学出版会)など、監修書に『大人のための「恐竜学」』(祥伝社)、『そして恐竜は鳥になった 最新研究で迫る進化の謎』(誠文堂新光社)など多数。