「あれ、まだある?」
 トニーはバックパックを下ろすと、すぐに聞いてきた。
 「あれ」とは、このランチスポットに転がっている、恐竜の足跡化石だ。この足跡化石を見ないと、ここでの調査は始まらない。
 「あった、あった。相変わらず同じところにあるね」
 ハドロサウルス科の足跡の化石・・・このような足跡化石が、この谷だけでも何十と落ちている。

 デナリ国立公園には、約7000万年前の上部キャントウェル層(Upper Cantwell Formation)という地層が露出し、これまで私たちはたくさんの恐竜足跡化石を発見してきた。もちろん、このタトラー・クリークでも。このハドロサウルス科の足跡は、約7000万年前につけられたものだ。

 「デナリ国立公園は、俺たちの知らないことをたくさん教えてくれたよな」
 足跡化石を眺めながら、私たちはつぶやいた。

ランチスポットに落ちているハドロサウルス科の足跡化石(赤で囲んだ石全体。三つ指が見える)。この化石を確認して、その日の調査が始まる。
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* * *

 アラスカ調査の話はまだまだ尽きませんが、これからモンゴルへ調査に行くので、来月はモンゴル調査の話をします。

小林 快次(こばやし よしつぐ)

1971年、福井県生まれ。1995年、米国ワイオミング大学地質学地球物理学科卒業。2004年、米国サザンメソジスト大学地球科学科で博士号取得。現在、北海道大学総合博物館准教授、大阪大学総合学術博物館招聘准教授。モンゴルや中国、米国アラスカ州、カナダなど海外での発掘調査を精力的に行い、世界の恐竜研究の最前線で活躍中。著編書に『恐竜時代I 起源から巨大化へ』『日本恐竜探検隊』(以上、岩波書店)、『モンゴル大恐竜 ゴビ砂漠の大型恐竜と鳥類の進化』『ワニと恐竜の共存 巨大ワニと恐竜の世界』(以上、北海道大学出版会)など、監修書に『大人のための「恐竜学」』(祥伝社)、『そして恐竜は鳥になった 最新研究で迫る進化の謎』(誠文堂新光社)など多数。

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