「タトラー・クリークまで」と運転手に降りる場所を伝え、私たちはバスに乗り込んだ。

快晴の空に姿を現したデナリ

 快晴である。これは珍しい。私たちの中でデナリ国立公園というと、「湿っていて、寒い」 というイメージがある。調査中はいつもどんよりとした空模様で、しょっちゅう雪や雨が降る。必ずと言っていいほど、ずぶ濡れになりながら調査を行うことになる。
 また、夏でも寒いので、幾重にも着込む。コツは、分厚いジャケットを1枚着るのではなく、薄いシャツやジャケットを何枚も重ね着すること。デナリ国立公園の調査では、「脱いで、着て」をとにかく繰り返す。そうやって体温をうまく調整しながら、作業する。ちなみに、ダウンジャケットは避けたほうがよい。濡れると保温効果がほとんどなくなってしまうからだ。ウールのシャツやジャケットがおすすめである。

 「デナリが見えるよ。すごくキレイだ」
 「デナリ」とは、先住民アサバスカ族の言葉で「高いやつ・偉大なもの」という意味である。私たちに馴染みがある「マッキンリー山」と「デナリ」は同じ山を指す。
 調査に向かう時にデナリが見えることはほとんどない。今日はラッキーだ。

バスから見えたデナリ。中央奥に見える、雪をかぶった白い山だ。その向かって左の山が、私たちも以前調査に入ったダブル・マウンテン。多くの恐竜化石を産出する山で、2つの峰があることから、そう名付けられている。
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 2時間ほどの道のりの間、私たちがこれまで調査してきた山々が見えてくる。ファング・マウンテン、ダブル・マウンテン、スロープ・マウンテン。これまでの調査のことを思い出しながら、バスに揺られていく。バスの揺れが心地よく、ウトウトしはじめた。

 「タトラー・クリーク!」
 早く降りろと言わんばかりに、運転手の声が響き、目が覚める。
 「さて、行こう」
 狭いバスの中を何とか這い出て、外に出る。

 相変わらず、タトラー・クリークにはきれいな水が流れている。

 「いい天気だ。ヨシ、今日はどこまで行こうか?」
 「取り敢えず、いつものランチスポットまで行ってから考えようか。まだ行ったことのない、イグルー・マウンテンの北面もいいかもね」

 2007年に初めてタトラー・クリークに入ったときは、調査する距離はそれほどでもなかったが、毎年、谷の奥へ奥へと調査地を広げていっているため、距離がどんどん遠くなっている。

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