第8回 アラスカで待っていた、美しい花と足跡化石

タトラー・クリーク沿いを歩く、私(手前の黒のバックパック)とトニー(奥のオレンジ色のバックパック)。
[画像のクリックで拡大表示]

 米国アラスカ州に初めて調査に入ったのは、2007年の夏。州中部にある、マッキンリー山がそびえ立つデナリ国立公園だった。当初は「1年で終わる調査」と思っていたが、それ以来毎年調査に入り、いつの間にか今年で9年目となる。この間、デナリ国立公園に加え、ランゲル=セントエライアス国立公園やユーコン=チャーリー・リバーズ国立保護区も調査で訪れた。今となっては、アラスカが私の調査の中心の1つになっているのは間違いない。どれも記憶に残る調査だ。

 今年の調査は、恒例のデナリ国立公園。そして、まだ恐竜調査が行われたことのないスロープ・マウンテンに狙いを定めている。スロープ・マウンテンは、州北部にある標高1200メートルと低くなだらかな山だ。アラスカを縦断するダルトン・ハイウエー沿いにあり、北極圏の扉国立公園・保護区(Gates of the Arctic National Park and Preserve)と、北極圏国立野生生物保護区(Arctic National Wildlife Refuge)の間を抜けたところにある。ここはもう、北極圏の中だ。

観光客と同じバスで調査地へ

 2015年7月、私はデナリ国立公園に再び戻ってきた。

 この公園にやってくると、まだ肌寒いにもかかわらず、「夏がやってきたな」と思う。今年は許可の関係で、実際の調査は日帰りでたったの2日間。しかも、観光客と一緒にバスで調査地に入ることになった。いつもはヘリコプターで調査に入るが、バスに乗るのは初めて。なかなか貴重な体験である。

 「ここに並んでていいのかな?」
 私と一緒に調査に入る、ペロー自然科学博物館のアントニー・フィオリロ博士(通称トニー)は、そう言って観光客の後ろに並ぶ。みんな軽装なのに比べ、私たちは明らかにバックカントリー(へき地) に入るべく、重装備だ。日帰りではあるが、調査に備え、それなりの装備を整えた。

 ハンマー、フィールドノート、GPSユニット、ブラントンコンパス(方位磁針、水準器、鏡、照尺などを組み合わせた小型の測量測角器具で、クリノメーター機能も備える)、ルーペ、筆記用具といった調査用具はもちろんのこと、雨具、ランチ、水筒、浄水器、予備のジャケットもバックパックに詰め込んだ。デナリ国立公園では恐竜の足跡化石が多産しているので、型を採るために数キロのシリコンを持っていく。そして、忘れてはいけないのが、クマよけスプレーだ。

 これらをすべて詰め込むと、バックパックはかなり重くなる。そのため、私はトレッキングポールを使って歩く。トニーは「トレッキングポールを使うなんて情けない」などと冗談めかして言うことがあるが、確かに「情けない」理由があるのだ。以前、トレッキングポールなしで調査を行った際、何度か足を痛めてしまった。中足骨頭部(足の裏)と膝のじん帯を痛めている。さらに、これまでに2度、肋骨も骨折しているため、足への負担軽減を第1に考え、トレッキングポールを使うことにしたのだ。