すぐに手のひらは化石でいっぱいになった。「日本だったら、こんなに化石が出たら大ニュースなのに」とつぶやきながら、目の前の化石から重要そうなものだけを選ぶ。

バラバラの骨で3次元ジグソーパズル

 5メートルほど向こうに、どこかで見たことのある骨がバラバラになって散乱している。恐竜の頭骨っぽい。
 「頭骨っぽい」という表現はまったく科学的ではないが、私たち古脊椎動物の研究者は、骨の形を体で覚えている。解剖学的に骨の形を知識として理解するのは当然だが、それよりも私が大事だと思うのは、世界中にある多くの化石に触れることだ。目から入ってくる情報だけでなく、触感による3次元の形の記憶。体に刻み込まれた骨の「知識」が、フィールドで役に立つ。地面に落ちているバラバラになった骨を見て、それがどの恐竜のどの骨であるかを考える。これが意外に楽しい。

 バラバラになった骨を組み上げていく、3次元のジグソーパズル。夢中になって、時間がたつのを忘れてしまう。「あの骨だろう」と想像し、「だったらここに出っ張りがあるはず」と考えながら、組み立てていく。すると、ある時点で、その骨が何なのかがわかる。この時私が組み立てていたのは、ハドロサウルス科の鱗状骨(りんじょうこつ)という骨だ。大きさは中ぐらい。大人になりきっていない亜成体のハドロサウルス科のものだろう。

 そこから10メートルほど離れたところには、アンキロサウルスの仲間の皮骨(背中の装甲板)らしきものが落ちている。これもバラバラだ。さっきと同じように組み立てると、想像していたものと違って、なんだか三角錐の形をしている。出来上がった骨を手にして考える。どうも皮骨にしては、違和感を感じる。

 「何だこりゃ?」
 骨をくるくる回転して、自分の頭の「データベース」に入っている骨と照らし合わせる。「あ!」

 その三角錐の骨がある角度になった時に、何なのかがわかった。アンキロサウルスの仲間の骨ではなく、ケラトプス科(角竜ともいう)のクチバシ(前上顎骨か前歯骨)の部分だった。この瞬間がたまらない。スッキリ! の瞬間だ。

 この時だけで、この地層からは、ティラノサウルス科、ケラトプス科、ハドロサウルス科、カメと魚の化石が見つかった。おそらく、川が流れていて、魚が泳ぎ、川辺にはカメが、そしてそのそばには恐竜たちが歩いていたことを、そよ風にあたりながら想像する。

 「ボーンベッドもいいけど、発掘に値するものを探さなきゃ・・・」
 2時間もここで化石を探していたことに気づいた私は、さっさと採集した化石を梱包し、バックパックを担ぐ。より貴重なものを探すため、私は先を急ぐことにした。

ボーンベッドから見つかったティラノサウルス科の歯。なかなかきれいな化石だ。
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小林 快次(こばやし よしつぐ)

1971年、福井県生まれ。1995年、米国ワイオミング大学地質学地球物理学科卒業。2004年、米国サザンメソジスト大学地球科学科で博士号取得。現在、北海道大学総合博物館准教授、大阪大学総合学術博物館招聘准教授。モンゴルや中国、米国アラスカ州、カナダなど海外での発掘調査を精力的に行い、世界の恐竜研究の最前線で活躍中。著編書に『恐竜時代I 起源から巨大化へ』『日本恐竜探検隊』(以上、岩波書店)、『モンゴル大恐竜 ゴビ砂漠の大型恐竜と鳥類の進化』『ワニと恐竜の共存 巨大ワニと恐竜の世界』(以上、北海道大学出版会)など、監修書に『大人のための「恐竜学」』(祥伝社)、『そして恐竜は鳥になった 最新研究で迫る進化の謎』(誠文堂新光社)など多数。

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