「ヨシ、ここがティラノサウルスの仲間、ゴルゴサウルスの全身骨格が発見されたところだよ」
フィルはそう言うと、さっさと崖の中腹に降りたが、私の目の前にはハドロサウルスの仲間の尻尾の骨が露出している。思わず、「お~」と声を上げた。ハドロサウルスの仲間の化石といえば2011年、北海道むかわ町穂別地区で14個つながった尻尾の骨を確認したが、それによく似ていたからだ。
「このハドロサウルス科の尻尾は・・・」と話しかけると、「最初はその尻尾を掘ろうかと思っていたんだけど、4メートル下の、ちょうど今、私がいるところから、ゴルゴサウルスの指の骨が見つかってね。こちらを掘ってみたら、全身骨格だったんだ! それに、そのハドロサウルス科の尻尾、見ればわかる通り、尻尾の先しか残っていないから、そのままにしておいたよ。この公園からは、ひと夏だけでいくつもの恐竜骨格化石が発見される。見つけるのも課題だけど、その中からどれを掘り出すかを決めるのが大変なんだ。時間も資材も限られているからね」とフィル。
日本の状況から考えると、なんとも贅沢な悩みである。
この調査のミッションは2つ。歩いて新しい恐竜化石を探すこと。そして、選んだ恐竜骨格を発掘することだ。まずは「プロスペクト」という、歩いて探すことから始める。実際に何をするのかというと、崖を登り降りして、ひたすら地上に落ちている化石を探すのだ。
恐竜化石の発見パターンは2通りある。「ボーンベッド」を見つけるか、骨格を見つけるかだ。どちらも重要だが、それぞれ私たちに伝えてくれるメッセージが異なる。
2種類のボーンベッドが伝えること
ボーンベッドとは、不完全な骨が1カ所に集まった状態をいう。「ボーン」は骨、「ベッド」は層を表す。日本語に訳すと、「骨化石密集層」だ。
この骨化石密集層は、さらに大きく2つに分けることができる。1種類の恐竜の骨化石がバラバラになって密集している層。これを「モノタクシック・ボーンベッド」という。このタイプのボーンベッドは、その動物の行動を表していることがある。その良い例に、ティラノサウルスの仲間、アルバートサウルスのボーンベッドがある。1カ所に、少なくとも8体の個体の骨が集中していたことから、ティラノサウルスの仲間も集団で行動していたと考えられている。