第5回 恐竜を研究する意味

 ここで再度自問する。「恐竜研究は、人のためになっているのか」

 今、はっきりとした答えはない。しかし、私が初めてアンモナイトの化石を掘りに行ったときに抱いた、ちょっとした興味。これが、私の人生を変えた。もしかしたら、恐竜を切り口に新しい道ができ、子どもたちの夢の選択肢が増えるかもしれない。

 私は、自分がサイエンスの面白さを伝えるという重要な役割を担っていると信じている。恐竜にはその力があり、その力を多くの人に伝える大きな責任が自分にあるように感じている。非常に大きな責任だ。

* * *

 私事だが、今年の4月11日に私のおいが亡くなった。20歳の若さだった。朝、起きてくるのが遅いので部屋に起こしに行ったら、もう冷たくなっていたそうだ。前夜まではいつもと変わらない生活をしていた。「お風呂に入ってくる」という言葉を最期に、この世から去ってしまった。
 4月13日、おいに会いに東京へ行った。家に着いたのは夜中だった。明るい部屋に入ると、真っ白なベッドに横たわるおいがいた。まるでただ寝ているかのように、きれいな顔をしていた。本当に今にも起きてきそうだった。兄が涙をこらえて笑いながら、「どこかにスイッチがあって、そこを押すと起きるはずだ」と、おいの頭をなでて必死にそれを探す。そんな私たちを見ているのだろうか、おいはうっすらとほほ笑んでいるようにも見えた。

 私は、おいにいったい何ができたのだろうか。確かに世の中の子どもたちには夢を与えられたのかもしれない。でも、すぐ身近にいるおいには何もできなかった。忙しさに取り紛れて、おいに会うこともなかなかできなかった。悔いが残る。手足がしびれるくらい、体の中が悔しさで一杯になる。今、何かおいのためにできることはないのか。私にしかできないこと・・・。

 おいの部屋を見回すと、10年以上前にお土産であげた米国の国旗が下がっている。あんな昔にあげたものを、取っておいてくれた。でも、米国に連れて行ってあげることすらできなかった。

 私は心に決めた。今年はおいを一緒に調査へ連れて行く。一生かけても行けないようなへき地、世界でもごく少数の人しか見られない絶景、厳しい自然に生きる美しい動物たち、経験したことのないようなおいしい料理とビール。そして、新しい恐竜を見つける興奮。
 今年の調査は、彼に捧げようと思う。そしてフィールドで、彼と恐竜について語り明かそうと思う。

おいの小林大悟(大ちゃん)の成人式の時の写真。これが最後の写真となり、遺影となった。笑顔の可愛い、人懐っこい青年だった。
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小林 快次(こばやし よしつぐ)

1971年、福井県生まれ。1995年、米国ワイオミング大学地質学地球物理学科卒業。2004年、米国サザンメソジスト大学地球科学科で博士号取得。現在、北海道大学総合博物館准教授、大阪大学総合学術博物館招聘准教授。モンゴルや中国、米国アラスカ州、カナダなど海外での発掘調査を精力的に行い、世界の恐竜研究の最前線で活躍中。著編書に『恐竜時代I 起源から巨大化へ』『日本恐竜探検隊』(以上、岩波書店)、『モンゴル大恐竜 ゴビ砂漠の大型恐竜と鳥類の進化』『ワニと恐竜の共存 巨大ワニと恐竜の世界』(以上、北海道大学出版会)など、監修書に『大人のための「恐竜学」』(祥伝社)、『そして恐竜は鳥になった 最新研究で迫る進化の謎』(誠文堂新光社)など多数。