崖から飛び出ているセントロサウルスの頭骨の化石。オレンジ色の部分は地衣類が付いている角。
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 新鮮なほうがおいしい食べ物や飲み物があるが、化石も同じだ。掘り出されたばかりの骨の質感はたまらない。こんなに美しいものはない。しかし、いったん空気にさらされると、その艶が失われてしまう。それでも、次の骨を露出すると、また美しい表面が出てくる。この作業を続けていくと、頭骨の形があらわになってくる。

 私は、恐竜の骨を含め、生物とは自然界が作り出した芸術品だと思う。骨もその芸術性の塊であり、一つひとつの曲線や突起物などは、無駄なく効率的に作られている(すべてではないが・・・)。私は、まさに恐竜時代に造られた「セントロサウルス」という作品を掘り出している。自分が芸術家になったかのような錯覚に陥る。

 これだから発掘はやめられない。体験したことのない人は、あんなに根気のいる地味な作業と思うだろうが、そうではない。いったん始めると、やめることができないのだ。

「そろそろ片付けないと。プロスペクトに行ったみんなを迎えに行かなきゃ」
 フィルが膝についた泥を払いながら、私に話しかける。

「え?? もう終わり?!」
 時間が経つのがあまりにも速い。さっき始めたばかりだと思ったのに! すでに4時間が過ぎていた。

「明日はここに戻ってこないの?」
「ヨシは、明日はもう1つのケラトプス類の産地を手伝ってほしい。ここはまた改めて、学生に発掘を続けてもらうよ」

 あまりの短さに不満を感じたが、プロスペクトに行った学生たちが待っている。渋々道具を片付けはじめる。

「このセントロサウルス、崖の中から飛び出そうとしているように見えるね。すごい化石だ」
 頭骨を見ながら私は言った。

発掘の帰りに出会ったガラガラヘビ。尻尾の先を見ると年齢がわかるそうだ。このヘビは6歳ぐらいだろうとのこと。
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小林 快次(こばやし よしつぐ)

1971年、福井県生まれ。1995年、米国ワイオミング大学地質学地球物理学科卒業。2004年、米国サザンメソジスト大学地球科学科で博士号取得。現在、北海道大学総合博物館准教授、大阪大学総合学術博物館招聘准教授。モンゴルや中国、米国アラスカ州、カナダなど海外での発掘調査を精力的に行い、世界の恐竜研究の最前線で活躍中。著編書に『恐竜時代I 起源から巨大化へ』『日本恐竜探検隊』(以上、岩波書店)、『モンゴル大恐竜 ゴビ砂漠の大型恐竜と鳥類の進化』『ワニと恐竜の共存 巨大ワニと恐竜の世界』(以上、北海道大学出版会)など、監修書に『大人のための「恐竜学」』(祥伝社)、『そして恐竜は鳥になった 最新研究で迫る進化の謎』(誠文堂新光社)など多数。

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