アッパリアス(ヒメウミスズメ)を捕る
アッパリアス(ヒメウミスズメ)を捕る
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 海氷の崩壊とともに、アッパリアス(ヒメウミスズメ)と呼ばれる水鳥の存在が夏の到来を実感させた。アッパリアスは頭部から背中にかけて黒く、そして腹が白い羽毛で覆われた翼長が25センチほどしかない小さな鳥で、5月から8月にかけて繁殖のために飛来し、切り立った岩場に群棲する。ちょうど私がデポ旅行から帰ってきたころから少しずつ姿を見せはじめていたが、それから1週間もすると漫画に出てくる蜜蜂の大群みたいに、無数の黒い点がひと塊になって、いくつもの集団をつくって空を飛びまわるようになったのだ。何万羽、何十万羽いるのか想像がつかない。そのうち村は山から響きわたるアッパリアスのざわざわとした鳴き声に始終つつまれるようになった。

 アッパリアスの飛来が本格化すると、村人たちは時間を見つけては、村からわずか1キロほどのところにある猟場に犬橇で出かけ、一度に何十羽、何百羽と捕獲するようになった。村の周辺にはアチキャット、アッパリホー、クーカッなどアッパリアスの猟場が何カ所かあり、夏本番になると人々はこれらの猟場の小屋やテントに泊まりこんで、連日捕りまくる。彼らは夏の間、この鳥で胃袋を満たすだけではなく、アザラシの体のなかに詰めこんで数カ月間石の下に放置することでキビヤと呼ばれる発酵食品をつくる。

 村に戻ってしばらくは本ばかり読んでダラダラと過ごしていたが、そのうち私もまたアッパリアスを捕獲する必要に迫られた。というのも、カナダにデポするための干し肉を作らなければならなかったからである。

 4、5月の橇によるデポ設置につづき、6月から8月は、二度にわけてカヤックでカナダのピム島とイヌアフィシュアクにデポを置きに行くことにしている。肉がないと長期の橇引き探検は体力的にきつい。そのためデポには消耗した筋肉を補うための肉類もたっぷりと用意しておきたいところだが、生肉やペミカンだとさすがに夏のあいだに悪くなる可能性がある。

 そこで干し肉を作ることにした。幸い夏の極地は白夜で24時間太陽が出ているうえ、乾燥しているので干し肉は簡単にできる。こちらでは干し肉はニックと呼ばれ、ヒゲアザラシやクジラ、それにアッパリアス、ホッキョクイワナというサケ科の魚が使われることが多い。とりあえず私は飛来したはじめたアッパリアスで干し肉づくりを始めることにして、最初はイラングアに付いていき見様見真似で捕獲を始めた。

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