第6回 夏到来――干物作りの日々

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 5月上旬に1回目のデポ設置旅行から戻ってきてから、シオラパルクの村は徐々に春めいてきた。といっても、この極北の地の春は日本のそれのように花々が咲き乱れたり、木々が新緑に彩られたりといった、世界が一気に活性化されたような賑やかさがあるわけではない。一日中、太陽の沈まない白夜の季節となることで、冬の間、世界を覆っていた雪と氷が緩み、次第に解けて、封印されていた海や大地が一時的に素顔をあらわにするのである。

 春は雪解けの季節である。ぽかぽかと暖かくなると、アザラシも日差しを浴びるために呼吸穴から氷のうえに上がってくることが増えて、人々の表情も緩んでくる。村人たちは家の窓から双眼鏡で氷のうえで寝そべっているアザラシを見つけると、犬橇を駆って、カムタッホと呼ばれる氷に身を隠すための白い生地を張った道具で接近し、銃で撃ちとめるのだ。

 そして春は一気に駆けぬけ、夏が到来する。

 5月30日、借家の大家の息子、イラングアが昼寝をしていた私のところにやって来て、窓から外を指さして、「イマ、イマ(海水)」と告げた。外を見てみると、それまで村の前の海を覆っていた氷が割れて、一気に沖に流れはじめていたのだ。

 氷が割れて海が顔をのぞかせると、人々の様子は突然いそいそとしたものになった。彼らは、海岸線に転がってほとんど風景の一部と化していたウミアック(モーターボート)から土埃のかぶったポリエチレンシートを引っぺがし、エンジンを整備し、グラインダーをかけたりしはじめた。早く海に小舟を浮かべてセイウチを追いかけ、ヒゲアザラシを撃ちとめたい一心なのである。