第4回 大人になった犬との再会

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 グリーンランド北西部の中心地――といっても600人程度の人が住む小さな集落にすぎない――であるカナックの飛行場を、グリーンランド航空の赤く塗装された小さなヘリコプターが飛び立った。目的地は同国最北にあるシオラパルクの村だ。

 ヘリのなかに乗っているのは、イヌイットとは異なるコーカソイド的な容貌をした若い母親と小さな娘、それに日本人のくせに東南アジア人のような顔つきをした私の3人だけである。窓からは暖かい日差しが注いでおり、機内は春の田舎町を散策しているような長閑な雰囲気につつまれていた。パラパラとうら寂しいプロペラ音をあげて機体が高度数百メートルまで上昇すると、外には岩肌をさらした周辺の山々や白く輝く氷河の光景が広がった。

 カナックからシオラパルクは直線距離で約50キロである。日本円にして約2万4000円という高額な運賃のわりには、乗っている時間はわずか30分にすぎない。ヘリが村の高台に着陸すると、私は村人たちと1年ぶりの再会を、ぎこちない笑顔と控えめな握手で喜びあった。到着したのは予定通り3月25日だった。すでに極夜の季節はあけて、村は一気に一日中太陽が沈まない白夜の季節に向かっていく時期をむかえていた。

 カナックやシオラパルクなどがあるグリーンランド北西部は歴史的にチューレ地区と呼ばれており、広大な北極圏のなかでも、狩猟を基本にしたイヌイットの文化や生活様式が最も色濃く残っている地域だといえる。長年、この集落を観察してきた人によると、ここ10年から20年の間に彼らの文化は急速に衰退の一途をたどっているということだが、それでも、スノーモービルが人々の足となったカナダ北極圏とはちがい、ここでは一応、犬橇が冬の唯一の移動手段として活躍している。季節になると人々はアザラシやセイウチを狩り、自作のカヤックを漕いでクジラを追いかけ、カリブーの毛皮が一番すぐれた防寒着だと信じているのだ。

 このイヌイットの村をベースに私は今年の冬に計画している極夜の探検の準備を開始した。