第7回 こころとあたま

 きのう(5月28日)まで学会に参加していた。学会では、世界の研究者たちの発表を聞いたり、自分が発表していろんな意見をもらったりする。「みんないい仕事してるな」とか、「僕ももう少しで壁を破れるかも」とか思う。こういう交流が、深夜にもうひとがんばりするためのやる気につながったりする。研究者は理論と客観性を重んじるのだが、そのはしくれである僕の日常の研究は、実はモチベーションや情熱という感情につき動かされて進んでいる。

 一方で、科学的事実は研究者の情熱とはかかわりの無いところに存在している。どんなに情熱的に研究をしようとも、どれほど自分の研究対象を愛していようとも、科学的事実が間違っているならそれは間違いだ。僕らは、冷静で客観的な実験や解析を行って真理の探究を目指さねばならない。過度の愛や情熱は、ときとして自分の冷静さを奪うこともあることを自覚しておくべきだろう。

アイデアと恋に落ちてしまったら・・・!「君のこと、何があっても一生守るよ」なんてセリフを恋人にささやくのはステキなことだけど、サイエンスの世界では危険がともなうかもしれない。
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 しかし、サイエンスの道のりは苦行でもあり、それを毎日つづけるためのモチベーションは、私的な情熱からやってくる。研究者は情熱で自分をムチ打つのだが、その情熱は、フォーマルな場ではけっして見せないように訓練されている。むしろ研究者は、自分に対する冷酷な批判者と化さねばならない。さまざまな批判を事前に想定し、それに立ち向かえる客観的な証拠を積み上げてから、やっと人前で発表するにいたる。このように情熱と理性のバランスをうまく保つことが、研究者に必要な資質だと思う。「Love your research, but don't fall in love with your ideas(自分の研究を愛せよ。しかし、自分のアイデアと恋に落ちてはならない)」というのが、アメリカで学生をやってたときに誰かから聞いた格言である。

 さて、情熱と理性に関連して、最近気になる歌がある。

“ こころ
  あなたが感じることは、
  うそのない、気持ちなのね
  あたま
  きみの考えることが、
  うそのない、答えなのね ”

チャットモンチー 「こころとあたま」

 前回に引き続き、今回も進化心理学について考えてみよう。生物進化の観点から現代人の感情や行動を説明するという進化心理学。このコラムに書くネタを考えていたとき、偶然この歌が聞こえてきて鳥肌が立った。こころとあたまの葛藤。感情と理性は、なぜしばしば矛盾するの? この問題は、常に僕らを悩ませている。そしてこれこそが、進化心理学のテーマ、「人間とは何か」という答えのひとつなのかもしれない。こんな深いテーマをさらっと歌にされてしまい、僕はふるえた。