第6回 生物進化とこころ―自然と人との関係を問い直す

去年、タイの露店で買ったTシャツ。生物進化をジョークのネタに使うのは世界共通らしい。よくあるタイプの「サルからヒトへ」の図は、みんながぞろぞろと現生人類のあとをついて来てるようにも見える。だから現生人類が、「僕についてくるな!」とブチ切れているのである。ジョークとしてはそんなにおもしろくないけど、これが一般に理解されるほどには、生物進化は世界に浸透しているらしい。貴重な資料として購入。
去年、タイの露店で買ったTシャツ。生物進化をジョークのネタに使うのは世界共通らしい。よくあるタイプの「サルからヒトへ」の図は、みんながぞろぞろと現生人類のあとをついて来てるようにも見える。だから現生人類が、「僕についてくるな!」とブチ切れているのである。ジョークとしてはそんなにおもしろくないけど、これが一般に理解されるほどには、生物進化は世界に浸透しているらしい。貴重な資料として購入。
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 さて、生物進化ってどんな学問だろう。道ゆく人にインタビューしてみたら、「進化論?あれでしょ、サルから人が生まれたってやつでしょ?」なんて答えが返ってくるかもしれない。では、進化生物学ではどんな研究をするんだろう。恐竜やマンモスやアウストラロピテクスの研究をするんだろうか。たしかにそういうのも進化生物学の守備範囲なんだけど、それがすべてじゃない。

 そもそも、いま生きてる生物は、すべて進化の結果として現在のかたちになったのだ。だから、あらゆる生命現象の意味を考えるとき、生物進化を忘れてはならないと思っている。春にモンシロチョウが飛ぶことや、秋にモミジが紅葉することや、アフリカのライオンが子殺しをすることや・・・、とにかくどんな生命現象に対しても、進化生物学は示唆を与え得るのだ。こんなわけで、進化生物学は、絶滅した生物にロマンを馳せるだけの学問ではなく、いま生きている生物を理解するために根本的に必要な学問だと思う。

 そして、人間も生物であるがゆえに、生物進化の影響から逃れることはできない。たとえば、人間が二足歩行なのも体毛が薄いのも、みんな進化の結果なのだ。さらに言おう。人間は、からだだけじゃなく、こころも進化でできている。そう、現代の先進国に生きて日々満員電車に揺られてる僕らのこころと感情も、進化によってできている。学校で職場で家庭で、僕らを毎日突き動かす感情。悩みや憧れや、後悔やうらみや憎しみや愛情のすべて。これらの感情が生じるのも、進化の結果なのである。僕らの感情に対する進化の影響は日ごろ意識してないかもしれないけど、それは確固とした事実である。僕らがこれまで、進化についてあまりにも無頓着だっただけなのである。

 ある感情が僕らに生じる仕組みを考えてみよう。たとえば満腹感と、それに伴う幸福感が生じる原因は、おいしい食事をたくさん食べたからだろう。この場合の「おいしい食事」のような直接の原因を、至近要因という。それでは、なぜおいしい食事は幸福感をもたらすのか。滋養に富む食べものを十分に食べることは、僕らの健康を維持するために不可欠で、それはわれわれ個人の生存と子孫繁栄に益があるからだといえる。このように、なぜ人間がその感情を持っているかを説明する要因を、究極要因という。この究極要因が、生物進化の原動力である。そして、究極要因の観点から、人間の感情や知覚がいったいなぜ存在するのかを考える学問を、進化心理学という。

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