第5回 自然の研究にコンピューター・シミュレーションを使う理由

 「なぜ自然を研究するのにコンピューター・シミュレーションを使うの?」と聞かれることがある。確かに。こういう率直な疑問が浮かぶのも当然だと思う。というわけで今回は、コンピューターを使った研究ってなんなのか、ちょっとマニアックにお話してみたい。

 森のことを知りたいと思えば、森に行ってみるのは当然だ。そして、森にどんな種類の木が生えているのか、どのくらいの大きさに成長しているのかを観察する。こういうふうに、生態学という学問は、フィールドに行って研究するのが基本だ。コンピューターを使うときは、表計算ソフトにデータを打ち込むときや、論文を書いたり、プレゼンの資料をつくったりするときだけ。こういう生態学の研究者も多いことだろう。

 しかし僕は、そんな生態学に、コンピューター・シミュレーションというあまりなじみのない道具を持ち込むことにした。その意義を説明する方法はいろいろあるけど、ひとつだけ挙げるとすると、「フィードバックを知りたいから」。それは、表計算ソフトに数字を並べるだけでは決して分からない新しい世界であり、一歩踏み込んで自然のことを理解するために重要なコンセプトだ。

 フィードバックという言葉、読者のみなさんも聞いたことがあるだろう。日本人の日常でこの言葉がどんな場面で使われているのか、インターネットのニュースサイトで検索してみた。すると、「上司が部下の仕事を評価してフィードバックを与える」「消費者が製品を評価して、作り手にフィードバックする」みたいな内容がたくさん見つかった。なるほど、こんなかんじで、「意見を言うこと」をフィードバックと表現するのがポピュラーなのね・・・。

 フィードバックとは、複数の要素がお互いに影響を与え合うループを構成することである。もちろん「意見を言うこと」もフィードバックである。たとえば、ある会社が新製品を開発すると、それに触れた消費者の脳みそはなんらかの刺激を受け、なんらかの感情が生まれることだろう。その感情は、「すばらしい」でも「くだらない」でもよい。それを意見として開発者に伝えると、彼らはその意見を参考にして製品を改良する。この場合、開発者と消費者という2つの要素が存在し、お互いに影響を与え合っている。確かにこれはフィードバックだ。