第13回 エビが泳ぐ湖、ここはトロピカル南極

夜11時、空がピンク色に染まる。
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 大陸南極のアンターセー湖と、南極半島エリアのバイヤーズ半島。この2つの水中世界は大きくかけ離れていた。けれど、昭和基地周辺はどちらともそれほどかけ離れてはいない。やはり2つの中間に位置する生態系と言える。昭和基地周辺の湖が太古からの中間的な生態系であるとするならば、このバイヤーズ半島の湖のように生命あふれる生態系はどれほどの時代を経て生まれるのだろうか。

 同じ南極でも、2つの環境には大きな違いがある。まずほかの大陸からの距離が違う。南米大陸の先端からバイヤーズ半島までは約900kmなのに対し、アフリカ大陸の先端から昭和基地までは約4000km。4.4倍の差がある。その距離の差に単純に比例する以上に、外から生物が侵入してくるチャンスは、昭和基地周辺のほうが格段に少ない。

 それから、忘れてはいけないのは海鳥の存在だ。ここバイヤーズ半島には大陸南極とは比べ物にならないほど数多くの海鳥がやってくる。そして彼らを介して色んなものが孤立した南極大陸の外から陸の上に運び込まれるのだ。さらに、やはり気候の違いは大きい。比較的温暖で、こんなにもウェットな環境のバイヤーズ半島では生き物が利用できる液体の水がたくさんあって、しかも利用できる期間も長い。これは生物が侵入して定着する上でとても重要なポイントだろう。

 夜、このトロピカル南極の空はとても美しいピンク色に染まり、サンピラー(太陽柱)が現れた。
 私がこれまで見てきた南極とは全く違う南極。それを知り、実感できただけでもここに来た意味はとてつもなく大きい。本当に純粋に、ただただ心からそう思った夜だった。

空にはサンピラー(太陽柱)が現れた。
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廣川まさき

田邊優貴子(たなべ・ゆきこ)

1978年、青森市生まれ。植物生理生態学者、陸水学者。博士(理学)。2006年京都大学大学院博士課程退学後、2008年総合研究大学院大学博士課程修了。早稲田大学 高等研究所・助教を経て現在は、国立極地研究所・助教。小学生の頃から極北の地に憧れを抱き、大学4年生のときには真冬のアラスカ・ブルックス山脈麓のエスキモーの村で過ごした。それ以後もアラスカを訪れ、「人工の光合成システム」の研究者から、極地をフィールドにする研究者に転身する。 2007~2008年に第49次日本南極地域観測隊、2009~2010年に第51次隊に、2011~2012年に第53次隊に参加。2010年夏、2013年、2014年夏には北極・スバールバル諸島で野外調査を行うなど、極地を舞台に生態系の研究をしている。2014年~2015年の冬(南極の夏)に、二つの隊に参加し、南極の湖沼を調査した。著書に『すてきな地球の果て』(ポプラ社)。
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