第12回 とにかく湖まで行ってみよう

湿った重い雪の中、湖を目指してスノーシューでひたすら突き進む。
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 グシャグシャの湿った雪は容赦なく足をすくい、スノーシューの裏にはシャーベット状の雪がくっついてどんどん大きな塊になる。白いぼやけた景色の中をただただ歩いているうちに、まるで私はこの南極で鉄球付きの足かせをはめられた奴隷となって、どこかへ逃亡中なのではないか、という気分になっていた。背負っているザックの中に豪華サンドイッチが入っているのはまったく矛盾しているけれど。

 奴隷と化すこと1時間、ついに一つ目の湖、リムノポーラー湖が見えてきた。と言っても、すぐに湖と分かる景観ではない。谷間にある白いのっぺりとした雪原と言った感じだ。凍った湖氷の上に雪が積もっているのである。

一見して湖があるようには見えない、ただの雪原のような光景。これでも一番湖がありそうな雰囲気を出している場所の写真だ。
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 地図とGPSを頼りに、湖の真ん中付近を目指すことにした。GPSの表示を見ながら湖の上をゆっくりと一歩一歩踏みしめて行くと、次第に雪の下にある水の量が増えてきた。ふくらはぎくらいまで水に浸かる。湖氷の上に水溜まりができているという不思議な状況。湖の周りから雪解け水が流れ込んできて、湖面の氷の上に溜まってきているのだ。

 湖の真ん中くらいに来たところで、湖氷の状態を確認するためにシャベルで雪と水の層を掘ってみた。雪は20cmくらい、水も20cmくらい、その下に夏らしいさほど固くなさそうな湖氷があった。

「おぉ、なるほど。これならなんとかなりそうだね」
「そうだね。この水がちょっと鬱陶しいけど」

 私たちにとって目下最大の関心事は、湖氷を貫通する穴を開けられるかどうかだった。
 
 湖沼生態系(つまり湖の中の生き物)を調査するには、なにより湖氷に穴を開け、水中に調査機材を降ろす必要がある。今回、湖底の生物群集を採集するために使う「エクマンバージ採泥器」はクレーンゲームのような形をしていて、湖底に降ろしたらアームをガシャンと閉めて試料をすくい取る。そのアームを開けた状態で幅が約35cm。つまり、そのサイズが通過するような穴を開けなければならない。

 ところがここバイヤーズキャンプには、モーター式のアイスドリル(アンターセー湖や昭和基地周辺で使うようなガソリンエンジン式に比べると力が弱い)が一つしかない。しかも直径25cm、深さは1mまでしか掘れない。なので、このドリルで最低4つは穴を開け、もし氷が1mよりも厚かったら、直径15cm、長さ1.5mの人力ハンドドリルでなんとかしようというのが私たちの作戦だった。