第10回 雪に閉ざされたバイヤーズ半島

南極で2種しか自生していない高等植物のうちの1種“ナンキョクコメススキ”がそこら中にワサワサと群生していた。
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「ナンキョクコメススキ!!」

 そう、足元にはその名の植物が生い茂っていたのだ。南極と言えば草も木もないイメージだろう。確かに木はないのだが、実は高等植物(根、茎、葉に分かれた「高等」な植物)が暮らしている。 “ナンキョクコメススキ”と“ナンキョクミドリナデシコ”という名の高等植物だ。この2種だけしか生えていない。しかも南極半島エリアに分布しているだけで、大陸性南極には存在しないのだ。

 この2つの高等植物が南極半島に生育していることはもちろん知っていたが、この目で直接見るのは初めてだったうえに、こんなに簡単にキャンプ地の地面で見つけられるとは思ってもいなかった。もっとひっそりとごくわずかに生えていて、知る人ぞ知るポイントへ行かなければ見ることはできないものと勝手に想像していたのだ。光合成をする生き物と言えば、シアノバクテリア、藻類、地衣類、コケだけの大陸性南極しか知らない私にとって、南極に来たのに高等植物が生い茂っている足元の光景はあまりにも衝撃的だったのである。

 他の研究者たちはちょうど調査に出かける直前だった。3人組の湖沼学者マノロ(本名Manuel Toro)、微生物学者のアントニオとアルベルト。2人組の地形学者ミゲルと環境学者カイアタナ。全員スペイン人で、その中でカイアタナだけが女性だった。アンターセー湖に続き、またも女性は2人となった。

 55歳くらいのマノロは、このバイヤーズキャンプのメロンハットを建てたメンバーのひとりらしく、「15年以上ここに通っているが、夏にこんなに雪が多かったことは初めて。いつもならここは地面が剥き出しなんだよ」と教えてくれた。

 つまり、湖にはまだ氷が張っているということか。道理で上空から全く見えなかったわけだ。ということはこの雪の中を歩いて山を登り、湖に積もる雪をかき分けて、その下に張る氷に穴を開けて調査をしないといけない。バイヤーズ半島に来ることを計画したときに調べたり聞いたりした限りでは、夏の1カ月~2カ月は湖の氷は完全に解けてなくなるということだった。なので、私は昭和基地周辺の夏と同じように普通にボートを湖面に浮かべて調査をするスタイルになると想定していたのだ。

私のテントの中の様子。
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