第10回 雪に閉ざされたバイヤーズ半島
「9時に飛ぶから荷物を車に載せておいてね」
2015年1月11日の朝8時半、朝食を食べていると、チリ・エスクデロ基地の隊長が伝えにきた。いよいよ今回の南極半島調査の目的地であるリビングストン島のバイヤーズ半島までヘリコプターが飛べる天候になったのだ。
ここキングジョージ島に到着して2日間、低い雲がたれ込み、時折みぞれや雪が降るというあまり芳しくない天候だった。ただ、そのおかげで日本から南極までの急速移動で疲労した身体を回復させることができた。時差ボケも少しずつ治り、エスクデロ基地周辺を散策したり、すぐそばにある中国の長城基地との交流会に参加したりと、予想外に充実した滞在だった。
30分後、チリ空軍の真っ赤なヘリコプターに荷物を積み込むと、ライフジャケットと防音ヘッドセットを手渡され、機内へ乗り込んだ。すぐさまヘリコプターのブレードが回り始め、離陸した。
リビングストン島にはスペインのファンカルロスI世基地があって、1月7日にはスペイン人の研究者5人とフィールドアシスタント2人が船でキャンプ地入りしているらしい。ということはすでにキャンプ地の設営作業は終わって、私たちは到着次第すぐに調査に出ることができるという素晴らしい状況だ。
南極半島エリアにはいくつもの島、そしていくつもの基地が建てられていて様々な科学研究がされている。生物の豊かな場所ということがあってか、特に生物の研究者が多い場所である。ところが私たちの研究フィールドである湖が豊富な場所はあまりない、というかリビングストン島だけと言っても間違いじゃない。ほかの地域にももちろん湖はあるのだが、ポツポツとあるだけで1つのエリアにある程度の水深を持った湖が集中して存在するのはリビングストン島以外にはない。そんなわけで南極半島エリアで湖の研究をするならば、湖の集中しているリビングストン島のバイヤーズ半島が最高の場所なのだ。