第8回 つかの間の日本、そしてまた南極へ

 それからはひたすら日程調整や準備に取り組んだ。両方の南極行きの日程のこと、大学のこと、相手国とのやり取り、装備や研究・調査器材の調達や準備、普段の仕事、やらねばならないことが山のようにあった。今思っても2014年の春以降は「忙しい・・・忙しすぎる・・・南極のバカヤロー・・・うう・・・」なんてことをブツブツと言いながら、めまぐるしく日々が過ぎていった記憶ばかりが残っている。

 けれど、“チャンス”とか“タイミング”というものはこういうものだ。どちらかだけを選んでいたら、もう一方へ行けるチャンスはあと10年巡ってこないかもしれない、それどころか一生行けるチャンスがないかもしれない。それくらい、どちらも稀なチャンスだったと思う。それが偶然にも同じようなタイミングでやってきたのだ。たしかに考えれば考えるほど大変なことが多すぎるけれど、なんとかすればなんとかなるのであれば、なんとしてでも行こう、と決断したのだ。

 そういうわけで、休む間などなく今シーズン第2回目の南極へ出発の時がもう目の前に迫っていた。東京からニューヨーク、チリのサンティアゴを経由して、南米大陸の先端にある町、プンタアレナスへ。そこから飛行機に乗って南極・キングジョージ島に入り、リビングストン島のバイヤーズ半島に渡って約3週間のキャンプ生活をすることになっている。

 バイヤーズ半島で調査をすることで、これまで知っている南極と比べて、より発達した生態系を見ることができる。原始地球にはじまった生態系から、アンターセー湖、昭和基地周辺の湖、南極半島の湖、というふうに生態系が出来上がっていく過程をまるで時系列順に追ってゆくかのような調査行になるに違いないのだ。
 
 さて、私のまだ見ぬ温暖な最北の南極へ。
 一体どんな世界が私を待っているのだろう。

アンターセー湖でのキャンプも終わりに近づいた快晴の日、調査隊のメンバー全員で集合。キッチンテントの前で。(Photograph by Dale T. Andersen)
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廣川まさき

田邊優貴子(たなべ・ゆきこ)

1978年、青森市生まれ。植物生理生態学者、陸水学者。博士(理学)。2006年京都大学大学院博士課程退学後、2008年総合研究大学院大学博士課程修了。早稲田大学 高等研究所・助教を経て現在は、国立極地研究所・助教。小学生の頃から極北の地に憧れを抱き、大学4年生のときには真冬のアラスカ・ブルックス山脈麓のエスキモーの村で過ごした。それ以後もアラスカを訪れ、「人工の光合成システム」の研究者から、極地をフィールドにする研究者に転身する。 2007~2008年に第49次日本南極地域観測隊、2009~2010年に第51次隊に、2011~2012年に第53次隊に参加。2010年夏、2013年、2014年夏には北極・スバールバル諸島で野外調査を行うなど、極地を舞台に生態系の研究をしている。2014年~2015年の冬(南極の夏)に、二つの隊に参加し、南極の湖沼を調査した。著書に『すてきな地球の果て』(ポプラ社)。
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