第6回 南極ダイビングはトラブルとともに

ダイブホールに飛び込んで水面から見上げる。まるでアザラシになったような気分。
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 私は朝からひどく緊張していた。

 今日はアンターセー湖での潜水調査初日。この日が近づくにつれて、楽しみでワクワクしていた気持ちと裏腹に、色んな不安が募りつつあった。戦場におもむくというほどではないのだけれど、なんとなくそれに近い気持ちで、「もしかしたら死ぬかもしれない」なんてことも考えるようになっていた。

 辛抱強さや動じなさ、なんとかなるさ精神、という極地のフィールドワークで重要な性質が平均より恐らく高めの私だが、昨日から「もう湖の藻屑となっても構わない・・・いや、ちょっと待て、藻類に“屑”をつけるのはなんたることだ。ブツブツブツ・・・」なんてことが頭の中をぐるぐる巡っていた。敢えてシンプルに表現すれば、不安と緊張で昨夜は眠れなかった、ということである。

 自分なりに分析してみたところ、この不安にはいくつかの要因があった。アンターセー湖の寒さや風が尋常でないことはもちろん、これまで経験したことのない分厚い4mの氷の下へ潜っていくこと、いったん潜ると外界に通じている穴は1つしかないこと、穴はすぐに凍り始めること。そのうえ今回は初めて使う機材があまりにも多かった。地上とコミュニケーションを取るためのフルフェイス型マスク、アメリカ製の特注ドライスーツ、インナーのダウンつなぎなどだ。どれをとっても、これまで潜ってきた南極の湖とは全然違う。

 とは言え、なるようにしかならないのだから、ジタバタしても仕方がない。できる限りを尽くそう、死なないように。と、今回ばかりはいつもと違って、“なんとかなるさ”ではなく“なるようにしかならない”という同じように見えて結構違う意味合いの心境に変化していた。

これまでにない重装備

 分厚い氷で塞がれた南極の湖での潜水調査は、バディを組んで2人で潜るのはでなく、1人ずつ潜るというやり方がほとんどだ。ダイバーはロープをつなぎ、1人しか通れない穴から潜って作業をするので、2人一緒に潜ると作業やロープの取り回しが煩雑になり、逆に危険性が高まるのである。

 ちなみに、今回の調査隊6名のメンバーのうち、ダイバーはデイルと私の2人だけ。今日はこれといった潜水調査はせず、浮力の調整や機材の動作チェックをする“チェックダイブ”といった感じだ。