第66回 眠りながらも目覚めてる!? 半球睡眠とは何か?

 半球睡眠ってどのくらい長く眠るんですか?
 それに、睡眠中に半々で交代するんですか?

 よい質問です。半球睡眠の長さや左右半球の交代時間は動物によってかなり違うようです。

 昨年、ドイツのマックスプランク研究所を中心にした国際研究チームが素晴らしいデータを報告してくれました。彼らは大型の渡り鳥であるオオグンカンドリに小型脳波計を取り付けて最長10日間の渡りをしている最中の睡眠脳波を測定したんだ。これは大変手間のかかる仕事だよ。

 ワクワク

 それによると、渡り中のオオグンカンドリはあまり「寝ていなかった」。

 ガクーッ! 何ですか、それは!

 いやいや。完全に徹夜していたわけではないよ。1日当たり40分くらいしか寝てなかったんだ。睡眠はやっぱり夜間に集中していて、数分寝ては、10分くらい目覚めるというパターンを繰り返すようだね。

 やはり睡眠の大部分は半球睡眠だったけど、時には全脳が眠ってしまうこともあるようなんだ。実際、オオグンカンドリじゃないけど、渡り中に急降下する鳥もいるようで、もしかしたら居眠り飛行で墜落しかけたのかもしれないね。

 恐っ!!

 いずれにしても渡り中のオオグンカンドリの睡眠時間は予想していたよりもずっと短かったんだ。オオグンカンドリは地上では9時間以上も眠るらしいから、渡りの最中の睡眠時間は普段の10%にも満たなかったんだね。

 やっぱり飛びながらだと忙しくて眠れないのかな。俺っち、飛べないのでその苦労は分からないんだけど、想像するだけで疲れる。

 オオグンカンドリは翼を拡げると2m以上にもなる大型鳥のわりに体重が軽いため、あまり羽ばたかなくても滑空で飛べるようだよ。

 それよりも、彼らは羽毛に油分が少なく水面に浮くことが苦手らしい。水かきも小さいのでいったん水面に降りると飛び立つのも難しい。そのため絶えず飛び続けて、餌を採るときも水面に出てきた魚やイカを滑空したまま素早くつかまえる必要があるそうなんだ。しかも比較的水面に近い高度で飛行をしなくちゃならないので大変だ。

 半球睡眠ではそのような高度な運動を制御できないので、どうしても睡眠時間が短くなるようだね。渡り鳥の中にはオオグンカンドリと同じように飛行中の睡眠時間がとても短くなるものがほかにもいるんだって。やっぱり睡眠を犠牲にしないと長距離の渡りは難しいんだね。

 半球睡眠でもレム睡眠ってあるのかな。片方の脳でレム睡眠の夢を見て、もう片方の脳は現実世界を見ているというのも混乱しそう。最近流行のバーチャルリアリティ(VR)を片目でだけ楽しんでいる感じなのかなぁ。

 お、さすが年男のトリ君、鋭い疑問だね。興味深いことに、渡り中にはレム睡眠がほとんど見られないようなんだ。これはイルカでも同じような傾向が認められてます。レム睡眠が少ない理由は明らかになっていないけど、必要最小限のノンレム睡眠で脳に休養をとらせているんだろうね。

 でも逆に言えば、飛行中の鳥でさえ睡眠なしで済ますことができないんだ。さまざまな自然淘汰圧をくぐり抜けてきた全ての動物に睡眠が見られることは、睡眠が生命にとっていかに重要であるか如実に示しているよね。

 今年も、よく眠り、元気に頑張ろう!

 はーい!!

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。