第84回 あなたの風邪は寝不足から? 睡眠と免疫力の深い関係

 さて、ここまでは睡眠不足が感染防御に与える影響について解説したが、不幸にして感染してしまった場合には逆に免疫システムが睡眠不足を抱えている当人に「お灸を据える」ことが分かっている。

 風邪を引くととても眠くなる経験をしたことがないだろうか。細菌などに感染すると睡眠不足に慣れっこな人でも抗しがたい強い眠気が生じる。免疫細胞が出すサイトカインと呼ばれるホルモンの一種が、この眠気の出現に一役買っている。

「お前も私(免疫システム)もよく頑張った。しかし結果的に負けて(感染して)しまった。ここは開き直って休め!」と休業命令が出されるのである。そして十分に眠ることによって免疫細胞の機能を十分に引き出すことができる。

 このコラムでは何度も書いていることだが、睡眠不足を続けていれば短期的には大きな問題を生じなくても、中長期的には必ず体やこころを壊してしまう。睡眠不足に強いと思っている人、言い換えれば眠気やだるさなどの自覚症状が乏しい人はむしろ将来的に体調を崩すハイリスク群と言える。なぜなら自覚症状がなくても代謝や脳機能など心身には確実にダメージが生じており、危機感がない分だけ睡眠習慣を改善するチャンスを逃すからである。

 そのようなハイリスク群の一人である私に、睡眠の神様が「気づきやすい」自覚症状として風邪をプレゼントしてくれたのだと思うことにしている。とはいえ、あまり有り難くないプレゼントではあるので、溜まっている仕事が気になりつつも、今夜は開き直って早めに寝よう。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。