最初のレム睡眠は寝ついてから1〜2時間ほどで出現し、以後平均して約90分周期で一晩に4~5回出現する。レム睡眠は睡眠時間全体の20〜25%を占める。7時間睡眠であれば1晩に80~100分ほどのレム睡眠が出現する。1回あたりのレム睡眠は平均で20分ほどだが、体内時計の指令で明け方になるにしたがって長くなり、最後のレム睡眠は1時間以上も続くこともある。

健康な成人の典型的な睡眠の経過図。この例では0時に就床(消灯)して8時過ぎに起床している。レム睡眠は平均して約90分周期で一晩に4~5回出現する。(画像提供:三島和夫)
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 そして陰茎勃起はレム睡眠とほぼ同時に始まる。レム睡眠に入ると自律神経の影響で陰茎の深部を通る動脈が拡張して海綿体(陰茎内のスポンジ状の組織)内に血液が流入して陰茎が膨大する。すると静脈が圧迫されて血液は流出しにくくなり、ますます陰茎は勃起し、かつ持続する。さらに尾てい骨の辺りから出て陰部を支配する仙骨(せんこつ)神経が活性化されて海綿体の筋肉が収縮し、陰茎をより堅固にする。このようにしてレム睡眠中に男性のシンボルは屹立し続けるのである。レム睡眠が終了するとこれらと逆の現象が生じて陰茎は速やかに萎縮しはじめる。

 ちなみに男性の名誉のために申し添えると、レム睡眠中の勃起はエロティックな夢を見て生じるのではなく、純粋に生物学的な反応である。逆に言えば、上記のような勃起システムが健常であれば心理的な要因でインポテンツになった方でもレム睡眠中にはちゃんと勃起する。そのため、心因性の勃起不全(Erectile Dysfunction;ED)と、神経や血管障害などによる構造的な異常による(器質性)EDの鑑別診断のために睡眠検査が行われることがある。

 検査には、陰茎に専用リングを装着してレム睡眠中の勃起の有無やその硬度を客観的に測定できる専用の診断装置、その名も「陰茎硬度周径連続測定装置(レジスキャン)」や、より簡便な目盛り付きテープを使った「エレクチオメーター」などが用いられる。「そんなものをあそこに巻かれては立つものも立たない!」と思われるかもしれないが大丈夫。機能さえ保たれていれば「生物学的反応」としてちゃんと屹立する。

 EDではなく屹立しすぎて困っている方もいる。稀ではあるが、レム睡眠中に生じる過度の勃起のために局部の痛みが生じ、不眠となってしまうケースがあり、「睡眠関連疼痛性陰茎勃起」と呼ばれている。なかなか治療も難しいのだが、疼痛が激しい場合には手術によって陰茎内の血流量を抑える、つまり人工的に器質性ED状態にすることもある。男性にとっては究極の選択と言えるだろう。

 人と同様に、動物の多くは専用のねぐらを使って眠る。生殖活動も安全なねぐらで行うことが多いだろうから睡眠時間帯に勃起現象が生じやすくなるのは不自然ではない。しかしなぜノンレム睡眠ではなく、レム睡眠中に勃起が集中しているのか、その理由は明らかになっていない。

 レム睡眠とノンレム睡眠のどちらが睡眠の起源であるかについては諸説あるが、レム睡眠には骨格筋を弛緩させて消費エネルギーを節約する役割があるため、厳しい食糧事情の中で自然淘汰を生き抜く戦略の一つとして重要であり、進化論的に最も古い睡眠と目されている。睡眠欲と性欲は生物の原始的な欲求であり、睡眠と生殖は最も古くから存在している行動である。したがって太古から安全なねぐらで休むレム睡眠と生殖のための勃起現象がカップリングして進化したのかもしれない。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。

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