ある調査によれば、寝言がある(と周囲に指摘されたことがある)人は6割以上いたという。一般的に寝言は幼少時期に多く、成長とともに少なくなる。ただ、私のように成人になっても続くことが稀ではなく、「過去3ヵ月以内に寝言があったか」という質問に約2割弱の成人がイエスと回答しており、かなり頻度の高い睡眠中の現象だと言える。

“症状”ではなく“現象”と書いたのは、睡眠・覚醒障害の診断基準では寝言は「正常範囲」の現象とされているからである。周囲の安眠妨害になるような大きく頻回の寝言でなければ心配しすぎずに経過を見ていればよい。

 ただし、少し心配な寝言もある。例えば、寝言と一緒に手足を動かす、動き回る、悲鳴を上げる、体をけいれんさせる、あえいだり息が詰まったりする、同じ内容の寝言(特に苦しそうな内容の)を何日も繰り返す、などの症状を伴う場合である。レム睡眠行動障害や睡眠時驚愕症(夜驚)など睡眠時随伴症と呼ばれる睡眠・覚醒障害による寝言であったり、睡眠時てんかん、睡眠時無呼吸症候群、心的外傷後ストレス障害や不安障害など何らかの疾患が背景に存在する場合もあるので注意が必要だ。睡眠薬や抗うつ薬、ステロイドや降圧剤など治療薬で寝言が出ることもある。

 レム睡眠行動障害については第74回「その寝ぼけ行動、認知症の始まりかも……」で詳しく解説したが、レム睡眠中に夢体験そのままに体が動いてしまう睡眠病の一種である。通常、レム睡眠中には骨格筋(自分の意志で動かせる筋肉)は弛緩しているため寝返りも打てないのだが、この病気にかかると骨格筋のオフスイッチが入らなくなる。体の動きが出る前に大きな寝言から始まることも多く、好発時期の初老期以降に急に大きな寝言が目立つようであれば前兆の可能性もある。先に挙げた気になる兆候があれば専門医を受診した方がよい。

 身近な睡眠現象である寝言だが、その発生メカニズムはあまりよく分かっていない。

 睡眠ポリグラフで観察していると脳波上はすでに覚醒しているが自覚が無いままに寝言を話す場合もある。睡眠中ではなく不完全な覚醒状態(ぼんやり状態)で話しているのだから、もはや寝言ではなく“うわごと”とでも呼ぶべきか。このように「寝言」と一口に言っても、レム睡眠、深いノンレム睡眠、起床直前の寝言ではそれぞれメカニズムが異なるのかもしれない。睡眠中に他人から語りかけられると寝言で返事をすることすらある。些かやましいことに身に覚えのある方はご用心を。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。

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