残遺症状に関する他の多くの調査結果も似たような結果であり、睡眠問題、特に不眠症が絶えず上位にランキングされる。うつ病の不眠を「単なる症状」「うつが治れば消える」などと軽視していると、あに図らんや、抗うつ薬は飲み忘れても睡眠薬だけは手放せなくなったという患者さんも珍しくない。

 このようにうつ病で始まった睡眠問題、特に不眠症がうつ病治療の途中から一人歩きを始めてしまうことが多いのである。その理由は第38回「不眠症を慢性化させる「3つのP」とは?」を読んでいただけた方であればご存じのはず。いったんルビコン川を渡ってしまった(長引いてしまった)不眠は原因となった病気やストレスが解決しても自然治癒しにくく、難治性になってしまうのだ。特にうつ病ではその傾向が強い。

 繰り返すが、これらの残遺症状は、薬物療法などによって診断基準上は「寛解状態」に至っても残存している治療抵抗性の症状である。寛解状態とはうつ症状が一定数以下になると付けられる小康状態のことである。先に紹介した私たちの調査ではある診断基準で寛解状態と判定された患者さんでも平均2.7種類の残遺症状がみられた。つまり、残念ながら、現在の薬物療法は多くの患者を「完治(無症状)」させるほどのパワーがないのである。

うつ病における睡眠問題には早めの対処を。(イラスト:三島由美子)
うつ病における睡眠問題には早めの対処を。(イラスト:三島由美子)
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 小康状態と言っても、残遺症状がある限り生活の質がなかなか高まらず復職や復学が出来ずに療養生活を余儀なくされることが少なくない。このような状況から、2020年にはうつ病が虚血性心疾患に次いで生活者に健康面での負担を強いる第2位の疾患になると推定されている(WHOによるDisability-adjusted life-year (DALY)指標)。

 それだけではない。残遺症状があるとうつ病の再発率が高まることが分かっている。残遺症状のある患者の再発率は、完治患者の3〜6倍も高いといわれる。しかもある調査では、睡眠問題のない患者では2年後の再発率が5%に留まったのに対して、睡眠問題のある患者では30%に達していた。睡眠問題は治療後にも実に厄介な存在なのである。

 このようにうつ病の睡眠問題を「いずれは治る」と放置し、対処が後手に回るのは非常に損なのである。睡眠薬を怖がる患者さんが多いが、初期治療のタイミングを逃して、結局のところ睡眠薬を長期間にわたって服用するはめになったケースもある。逆に、治療初期からしっかりと不眠に対処することでうつ病自体の改善も促されることが明らかになっている。治すときは果敢に攻め、良くなったら速やかに引く。これがうつ病に伴う不眠治療の原則である。

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