第131回 左脳は「夜の見張り番」、“枕が変わると眠れない”わけ

 一つ目は、右利きの人の場合、もともと右脳に比べて左脳のデフォルトモード・ネットワークはその他のさまざまな脳領域、例えば感情や認知、運動などを司る脳領域との機能的な結合性が高いことが分かっている。このことは見張りとその後の必要時の対処行動にとって有利である可能性がある。

 二つ目は左脳の次に右脳のデフォルトモード・ネットワークが活性化した可能性がある。というのも、ブラウン大学の研究では睡眠の最初のサイクルでしか測定を行っておらず、睡眠後半部分でも左脳が働き続けるのか、それとも右脳が優勢になるのか現時点では分かっていない。

 いずれにしても、睡眠中にデフォルトモード・ネットワークが見張り番(ナイトウオッチ)に一役買っていること、その際に左脳と右脳が役割分担をしている可能性は高そうである。

 ここまで読んだ睡眠に詳しい読者の中には“半球睡眠”のことが頭に浮かんだ人がいるのではないだろうか。半球睡眠とは、左右の大脳半球が片方ずつ交代で眠る現象のことで、実際に脳波を測ってみると文字通り片側は覚醒時の脳波、反対側は睡眠脳波が同時に出現している。半球睡眠は渡り鳥のほか、イルカやクジラなどの海洋哺乳類でも認められる。大脳半球を半分使った見張り番機能にも通じる現象と言える。ご興味があれば第66回「眠りながらも目覚めてる!? 半球睡眠とは何か?」をご覧いただきたい。

 多くの現代人は夜0時前後から朝7時頃までの6~7時間の就床時間帯に睡眠をギュッと詰め込んでいる。若者はもちろんのこと、働く世代の人々にとってこれは短すぎる。そのため睡眠負債が生じ、一度も目を覚ますことなく朝まで寝続けることができるのである。

 第77回「昔は良かった? 照明がなければ人は長く眠れるのか」でも紹介したが、夜間照明を使っていない世界各地の狩猟採集民族やマダガスカルの農業コミュニティの人々の睡眠習慣を調査した研究によれば、日没後数時間で入眠し夜明け前に覚醒する早寝早起きに加えて、かなり中途覚醒が多いことが分かっている。そもそも電化生活が始まるまでは、たき火を絶やさないため、家畜が襲われないように見張るため人々は夜中に何回か目を覚ます習慣があったと言われている。そのような時代には睡眠中の見張り番機構は大活躍していたのではないだろうか。

つづく

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三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。