第131回 左脳は「夜の見張り番」、“枕が変わると眠れない”わけ
朝まで一度も目を覚まさず、ぐっすり、たっぷり眠りたい。
特に眠りが浅くなり、夜中に何度か目を覚ます中高年ほどこのような熟眠願望が強いようだ。もちろん安眠できるに越したことはないが、生物界広しといえども夜間ぶっ通しで眠る(意識を失う)ことのできる動物は存在しない。捕食者が周囲をうろつく弱肉強食の世界にあって、長時間眠りこけてしまうような生物は自然淘汰の過程で消えてしまったというのが通説である。
外敵に襲われる心配の少なくなった現代人も例外ではない。普段熟睡している若者でさえ就寝環境が変われば眠りは浅くなる。いわゆる「枕が変わると眠れない」現象である。
健康な人が初めて実験室の中で睡眠ポリグラフ検査を受ける場合、センサー類が気になったり、慣れない睡眠環境で寝かせられる緊張から、普段の睡眠よりも寝つきが悪く、中途覚醒が増え、深い睡眠が減ってしまう。これは“第一夜効果(first night effect)”と呼ばれる(第82回「枕が変わると眠れない、意外と大きな影響と対策」)。よほど神経質な人でもない限り、第二夜、第三夜と過ごし環境に慣れるにつれて普段通りに眠れるようになる。
環境が変わった時に眠りが浅くなるメカニズムは何だろうか?
従来、心身に危険を感じると作動する生体警告系システムの観点から語られてきた。物音、風景、臭いなどから危険を察知すると、心拍数や血圧が上がり、体温が高まり、いわゆるストレスホルモン(副腎皮質ホルモン)が分泌されて覚醒度が上がり、いつでも「闘うか、逃げるか (Fight-or-Flight)」を決めて即座に行動に移すことができるように準備を整える。この生体警告系システムが睡眠中にも働き、第一夜効果をもたらしていると考えられてきた。確かに震災などの強いストレス状況下では生体警告系システムによる睡眠障害が生じることが明らかになっている。
ところが、普段の生活で経験する「枕が変わると眠れない」夜には、自律神経系や副腎皮質ホルモンには大きな変化が見られないにもかかわらず睡眠が浅くなったり、些細な刺激で目を覚ますことがある。そのメカニズムとはどのようなものだろうか?
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