第64回 睡眠時間の男女差について

 確かに女性に特有の睡眠問題はある。例えば、月経1週前頃(黄体後期)から月経中にかけて睡眠の質が低下し、眠気やだるさが強くなる女性は少なくない(約30%前後)。これは女性ホルモンであるプロゲステロンの増加や体温上昇が影響し、深い睡眠(徐波睡眠)が減少するためと考えられている。

 子供の睡眠では深い睡眠の比率がとても大きく、脳の発達過程で神経シナプスの選別(刈り込み)に貢献しているとされる。深い睡眠は成長とともに急速に減少するが、女子の方が早く減少が始まる。これは女子の方が性的成熟や大脳皮質の発達が早いことと関係しているらしい。

 しかし、発達途上で見られるこれら睡眠の性差も徐々に消失し、月経周期に関わる若干の変動はあるものの、成人の睡眠時間の男女差はほとんどなくなることがこれまでの研究で明らかになっている。むしろ壮年期(30代、40代)では男性よりも女性の方が寝つきが良く、睡眠時間が長いという報告すらある。

 閉経(50歳前後)を迎えた女性の30〜40%が悩まされる更年期障害では不眠がよくみられる。これは、のぼせ、ほてり、発汗など(血管運動神経症状と呼ばれる)による。ただし、これらの症状が目立たない通常の更年期では、睡眠ポリグラフ試験で測定した睡眠時間や睡眠構造にはさほど大きな変化は(男女差も)認められない。

 ではナゼ日本の女性の睡眠時間が短いのかとさらに突っ込んだ質問を受けると返答に窮する。「女性が家事の負担を多めに抱えているなど社会慣習のためだと思います」などとしどろもどろになり、「かく言う我が家も……」と自白させられ、ついには「体質的な違いがないのに北欧で女性の睡眠時間が長いのも不思議な話で……」などと余計なことを口走って顰蹙(ひんしゅく)を買ったりする。

 実際のところ、女性の睡眠時間が短い国、長い国でそれぞれ共通した社会慣習があるわけではなく、日本の女性の睡眠時間が短い真の理由は不明である。短い国のメンツを見ると男性の家庭でのあり方に問題があるのではないかと不安になるが。

 余談ばかりになってしまった。

 睡眠時間には体質的な男女差はほとんどないにもかかわらず実生活での睡眠時間では違いが存在する。その背景要因は複雑だ。睡眠時間には、季節、日照などの環境要因や体格、体力などの個体要因も深く関連する。

 例えば、健康な人でも日照時間が短くなる冬季には睡眠時間が長くなる(第13回「もっと光を! 冬の日照不足とうつの深~い関係」)。特に北欧やカナダのような高緯度地域では日照時間と連動して睡眠時間の季節変動も大きい。当然、年間を通した平均日照時間も短い。

 また、気分、睡眠、食欲の季節変動が極端に大きくなる冬季うつ病と呼ばれる気分障害があるが、この病気は女性に圧倒的に多い。女性の方が日照の季節変動に敏感なのかもしれない。

 これはあくまでも仮説だが、北欧など高緯度地域の国々の日照時間の短さや季節変動が女性の睡眠時間が長いことに影響しているのかもしれない。

 次回は、女性に多い睡眠障害についてご紹介する。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。