第38回 不眠症を慢性化させる「3つのP」とは?

 昨年改訂された米国睡眠医学会の診断基準(睡眠障害国際分類第3版)では不眠症の診断基準として、「寝つきが悪い」「夜中に目が覚める」などの不眠症状があること、不眠症状のために日中に眠気や倦怠感、作業能力の低下など心身の機能異常が生じていること、その他の睡眠障害の基準に合致しないことなど6項目が設けられている。

 不眠(症状)は成人の約30%にみられるが、このような基準を満たす不眠症は軽症も含めて成人の10%、病院に受診するような中等度以上の不眠症が約7%に認められる。非常に頻度の高い疾患であることが分かる。

 さて、不眠症という診断がついたとする。その次にどのようなタイプの不眠症なのか分類する作業がある。従来の診断基準では不眠症は原因別に「うつ病など精神疾患によるもの」、「痛みや痒みなど身体症状によるもの」、「薬物の副作用によるもの」など10種類以上に分類されていた。ところが新たな診断基準ではこの原因別の分類が全くなくなってしまった。

 原因別の分類がなくなったのには幾つか理由があるが、最大のポイントは原因が何であれいったん不眠が慢性化するとある共通したプロセスで「正常な生体反応としての不眠」から「病気としての不眠症」に変質してしまうという不眠症の特徴である。心配事で始まった不眠も、アトピーの痒みで始まった不眠も、最終的には同じメカニズムで悪化していく。すなわち中長期的には原因別の分類はあまり意味を持たないことが明らかになったのだ。

 しかもいったん不眠症に悩み始めると、原因となった心配事や病気(痛みや痒みなど)が解決しても不眠症だけが残存して一人歩きを始めてしまうことが少なくない。夫が大病を患い心配して不眠になってしまった奥さんがいる。その後夫はすっかり快復して一安心したのだが自身の不眠症は改善せず、高鼾(いびき)で横に寝ている夫を恨めしげにみる、などのケースはその典型である。

 発症原因は問わない代わりに新たな診断基準では罹病期間別に分けることになった。それも、慢性不眠障害、短期不眠障害のたった2つに。前者は3カ月以上持続する不眠症、後者は3カ月未満の不眠症である。ルビコン川の川幅が3カ月に設定されたのである(旧基準では1カ月)。

 要するに不眠症は原因ではなく発症してからの期間だけでタイプ分けすれば十分というのが現在の不眠症についての医学的コンセンサスなのである。

 前置きが長くなったが、このような不眠症の特徴を念頭に本題である不眠症を慢性化させる「3つのP」について解説しよう。これは不眠症の発症と慢性化のメカニズムをわかりやすく説明する「3Pモデル」として有名になり、さまざまな臨床研究でその正しさが支持されている。図を見ながら解説を読んでいただきたい。

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