宇宙空間では脱同調の原因には事欠かない。低照度環境、90分周期の明暗サイクルのほか、後で紹介するようにスペースシャトルミッション内では特殊なシフトスケジュールが採用されていたことなどである。

 第一に、シャトル内の独特な光環境が体内時計を不安定にさせる。たとえばスペースシャトルは地球一周を90分で回っているため、大きな窓のあるフライトデッキでは90分ごとに太陽光が差し込む(最高で8万ルクス)。一方、ミッドデッキやスペースラブ(実験ユニット)では常に低照度(93〜171 ルクス)であった。90分周期の強すぎる光も、弱すぎる室内光も、サーカディアンリズム(約24時間周期のリズム)の調整には役立たないばかりか攪乱要因になる。

 また、スペースシャトルのミッションでは打ち上げ時刻に対して着陸時刻を相対的に4〜5時間早める必要があったため、多くのミッションでは、シャトル内でのクルーの睡眠スケジュール周期は23時間20分〜40分に設定されていた。要するに、“毎朝”平均30分早起きを続けなくてはならなかったのである。

 これを読んだだけでも本コラムの読者は「大変だな」とお気づきのことと思う。人の体内時計周期は平均で24時間10分、短い人でも限りなく24時間に近い23時間台後半である。30分も早寝早起きを続けるのは大きな困難を伴う。早起きはむりやりできても早寝ができないのでは睡眠不足になる。そこで寝つきをよくするため睡眠薬に頼るクルーが続出するわけだが、睡眠薬は脱同調を根本的に解決してはくれない。

 このように短期間の宇宙空間でのミッションではクルーの睡眠を妨げるさまざまな悪条件が重なっているのである。

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スペースシャトルでのミッション中の睡眠スケジュール(Dijkら(2001)のデータから作成)。左はスケジュール、右は腕時計型の活動量計で測定した睡眠リズム。赤丸はシャトルの発射と帰還の時刻。時刻は中部標準時(CDT)とグリニッジ標準時(GMT)で示されている。活動リズムを見ると覚醒時刻は毎日30分ずつ規則正しく前倒しされているが、寝つく時刻は不安定で苦労している様が読み取れる。
スペースシャトルでのミッション中の睡眠スケジュール(Dijkら(2001)のデータから作成)。左はスケジュール、右は腕時計型の活動量計で測定した睡眠リズム。赤丸はシャトルの発射と帰還の時刻。時刻は中部標準時(CDT)とグリニッジ標準時(GMT)で示されている。活動リズムを見ると覚醒時刻は毎日30分ずつ規則正しく前倒しされているが、寝つく時刻は不安定で苦労している様が読み取れる。
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