第37回 宇宙時代が到来、そのときあなたの睡眠は…

 最初に宇宙空間での眠りをレポートしたのはボストーク2号(Vostok2)で軌道上を約1日飛行したソビエト連邦(当時)の宇宙飛行士ゲルマン・チトフ、25歳である。1961年8月6日、バイコヌール宇宙基地から飛び立ち、軌道に入るとめまい、吐き気、頭痛などの宇宙酔いの症状に悩まされたものの、15:30から23:37(協定世界時UTC)までの8時間7分にわたり眠っている。「すばらしい眠りだった。浮遊感の中、赤ちゃんのようにぐっすり眠った」と答えたとされているが、覚醒時の気分は不良であったというのでちょっとやせ我慢の回答だったのかもしれない。

 実際には多くの宇宙飛行士(クルー)が不眠で悩んでいる。1999年に発表されたNASA資料によればミッション中の60%~70%の夜でクルーが不眠を経験している。実際、睡眠薬はシャトル内でもよく使われていた。クルーの4人中3人が何らかの睡眠薬(フルラゼパム、トリアゾラム、ジフェンヒドラミンなど)を服用し、その服用頻度たるや全ミッションの50%の夜に達している。

 クルーは精神的にも肉体的にも選び抜かれたエリート集団であるが、その彼ら彼女らにしても宇宙空間という特殊環境の中では安眠もままならない。クルーの業務は過密である。分刻みで組まれた多忙な作業により平均で6.5時間を下回るほどの短時間睡眠を強いられる。その分、質の良い睡眠を確保しなくてはならないのだがそれが実に難しいのだ。

 精神的緊張やストレス、カプセルホテル並みの狭い就床スペースや換気ファンの騒音、宇宙酔いなどによる不快感などによって睡眠の質はどうしても悪くなる。また、体液シフト(微小重力のため体液が上半身に溜まりやすい)によって脳の血流量も変化するため、睡眠や覚醒調節をはじめ脳機能にまだ未解明のさまざまな影響をもたらしていると考えられている。実際、クルーの睡眠構造を調べると、中途覚醒が増えたり深睡眠が減少するなどの変化が認められる。

 また、宇宙空間におけるやっかいな問題として生体リズムの脱同調がある。脱同調はこのコラムでは何回か登場した用語だが、睡眠時間帯とそれを支える生体機能リズム(ホルモンや自律神経リズム)が相互に正しい時間関係からずれてしまう現象をさす。平たく言えば、宇宙空間では時差ボケが生じやすいということである。時差ボケでは当然ながら睡眠の質は悪くなる。(参考:第32回「時差ボケは忘れた頃にぶり返す」

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