第36回 添い寝の功罪

 やはりこの調査でも日本の乳幼児の睡眠時間が調査対象国の中で最も短いことが分かる。そのほか、ぱっと見て気づくのはアジア圏の子どもの睡眠時間が短いことだろう。実はその原因の1つが添い寝ではないかという指摘があるのだ。

図2:3歳以下の乳幼児の睡眠時間の国際比較(Mindellらのデータから作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 乳幼児の睡眠習慣に関するある調査では、添い寝(親と同じベッドで寝る)頻度が低いのは、イギリス(5%)、ニュージーランド(6%)、オーストラリア(9%)、カナダ(12%)、アメリカ(15%)などである。寂しがる子をベッドに寝かしつけ、おでこにチュッ、なんて欧米映画のシーンは一度ならず目にしたことがあるだろう。

 逆に添い寝の頻度が高いのは、ベトナム(83%)、タイ(77%)、インドネシア(73%)、インド(71%)、日本(70%)、韓国(61%)などアジア諸国が続く。添い寝習慣のある国々の乳幼児の睡眠時間は押し並べて短いことが分かる。

 ここで科学に強い読者の方はある疑問を抱くと思う。アジアの乳幼児の睡眠時間が短いのは添い寝が原因ではなく、睡眠時間が短くて済む体質(遺伝的特性)があるのではないかと。確かに「第3回 睡眠時間の長さを決めるのは遺伝か環境か」でも取り上げたように必要睡眠量の「個人差」には遺伝的な影響が認められる。しかし、現時点では必要睡眠時間の「民族間差」のはっきりした証拠はない。

 さて、乳幼児の睡眠時間の国際比較をもう少し細かくみてみよう(図2)。さすが添い寝率が低いイギリス、ニュージーランド、オーストラリアは睡眠時間が長いな。で、添い寝率の高いアジア圏の国の睡眠時間はやっぱり短いな……ん? 添い寝率トップのベトナム、睡眠時間が長めじゃないか! そもそも「夜寝+昼寝」って何?

 実はこの国際比較では乳幼児の夜寝すなわち夜間睡眠と昼寝の合計(1日の総睡眠時間)をランキングしている。乳幼児期の睡眠はもともと夜寝だけではなく昼寝もかなり長く(多相性睡眠と呼ぶ)、昼寝も心身の健康を維持するのに重要だからである。

 そこで、夜寝と昼寝に注目して図2をもう一度よく見てみるとベトナムも含めて添い寝の高い国の大部分は夜寝が短いことが分かる。

 ベトナムの乳幼児は「低添い寝率御三家」に次ぐ睡眠時間をたっぷり昼寝をして勝ち得たのである。そして夜寝がベトナムよりやや長いにもかかわらず日本の乳幼児が総合最下位に沈んでいるのは昼寝が圧倒的に短いからなのである。 

 ちなみに、図1で示したスイスと日本の子どもの睡眠時間は夜寝のデータである。昼寝を加えた総睡眠時間を計算すると、乳幼児についてはスイスとの差は更に開く。

 最近は「保育園からの幼児教育」とやらが人気らしいが、たっぷりと昼寝はとらせてやっていただきたい。頭が切れる子ではなく感情がキレやすい子どもになってしまうかもしれない。実際、その危険性を示す研究データもある。

『朝型勤務がダメな理由』
三島和夫著

50万ページビュー以上を記録した「朝型勤務がダメな理由」をはじめ、大人気の本連載がついに書籍化! こんどこそ本気で睡眠を改善したい方。また、睡眠に悩んでいなくても自分のパフォーマンスを向上させたい方は、確かな知識をひもとく本書でぜひ理想の睡眠と充実した時間を手に入れてください。『8時間睡眠のウソ。』を深化させた、著者の決定版!
アマゾンでのご購入はこちら

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。