第36回 添い寝の功罪

 先頃、National Sleep foundationという米国の公益団体が「各年代にとって望ましい睡眠時間」を発表した。ハーバード大学の有名な睡眠研究者が代表を務めており、この団体に所属する十数名の睡眠科学、睡眠医学のエキスパートが共同で出したオピニオンであるため、かなり睡眠研究者の耳目を引いた。

 その勧告では、既存の科学的データをもとに、新生児期から老年期に至るまで幅広い年代における「推奨される睡眠時間」、「許容される睡眠時間」が提唱されている。ここでは前思春期(ティーンエイジャー)までの若い年代層での推奨および許容睡眠時間を表にまとめたので見ていただきたい。

  推奨 許容範囲
新生児(0-3ヶ月) 14-17時間 11-19時間
乳児(4-11ヶ月) 12-15時間 10-18時間
幼児(1-2歳) 11-14時間 9-16時間
就学前児童(3-5歳) 10-13時間 8-14時間
学童(6-13歳) 9-11時間 7-12時間
前思春期(14-17歳) 8-10時間 7-11時間

 さて、推奨時間はそれとして、実生活における子供たちの睡眠時間はどの程度であろうか。これまでに世界各国で子どもの睡眠習慣に関するさまざまな調査が行われているが、よく引用されるのはスイス(チューリッヒ)の子ども約500人を16年以上にわたり追跡調査した研究である。参加人数は少ないが同じ子どもの睡眠の発達を長期間観察した研究結果は貴重である。

図1:スイスと日本の子どの睡眠時間の比較。
全ての年代で日本の子どもの睡眠時間はスイスの子どもを下回っている(スイスの子どもの睡眠時間が青で日本の子どもが赤)。両国とも睡眠時間の定義は床上時間(就床から起床までの長さ)であるが、この年代の場合はその大部分で眠っている。 (Iglowsteinと筆者らのデータから作成。日本の子どものデータは、2歳児が西東京市、5歳児(就学前児童)が東京都多摩地区、7-13歳が全国小中学校調査の結果を用いた)
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 その結果を図にまとめてみたのでご覧いただきたい(図1の上段)。成長とともに睡眠時間が徐々に大人の睡眠時間に近づいていく様子がよく分かる。「第5回 ゾウの睡眠、ネズミの睡眠」でも触れたが、この間にダイナミックに減少するのは徐波睡眠(深い睡眠)である。逆に言えば、乳幼児の頃は1日の半分以上を寝ているが、その約25%(1/4)にあたる3時間以上を徐波睡眠に費やしている。この長時間の徐波睡眠中に成長ホルモンが大量に分泌される。ちなみに睡眠時間に占める徐波睡眠の割合は40歳台で15%、70歳台では10%を切る。

 それにしても「スイスの子どもはよく寝るな」というのが率直な印象である。なにせ、すべての年代で睡眠時間の平均値がNational Sleep foundationの推奨時間内に入っているのだから吃驚である。しかも96%の児童が許容範囲内にある(図1の中段)。

 この調査の対象児は無作為に選ばれたと言うが、一般のスイスの子どもも同じようにしっかり寝ているのだろうか……。そうであって欲しいような、欲しくないような。というのも、日本の子どもの睡眠時間はというと……ご明察通り「非常に短い」からである。スイスの子どもと比較するとクラクラするほど短い。

 たとえば、私たちが日本の子どもを対象にして行った睡眠習慣の調査結果を重ねてみたものが図1の下段である。日本の子どもの睡眠時間の平均は、どの年代でもほぼぴったりスイスの子どもの「下位2%」に留まっている。許容範囲内にあるとは言え、この程度の睡眠時間で十分なのかといえばそうではないだろう。睡眠不足が原因となってイライラや注意集中困難を呈している子ども達の存在が問題になっているからだ。

 私たちの調査結果の中で最も気になったのは2歳児の睡眠時間がとりわけ短いことだ。そこでもう1つ、乳幼児の睡眠時間の国際比較調査の結果があるので紹介する。

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