第61回 脳の掃除は夜勤体制

 これまで、一般住民を対象にした疫学調査で、さまざまな睡眠問題(短時間睡眠、睡眠不足、不眠、睡眠の質の低下など)がアルツハイマー病の発症リスクを高めることが報告されていたが、そのメカニズムは不明であった。グリンパティックシステムの存在と睡眠との関わりが明らかにされ、ナゾの一端が明らかになったと考える研究者は多い。

 ただし、長く寝ればその分だけ老廃物が効率よく排出されるかは疑問である。長時間睡眠もまた認知症のリスクを高めるという調査データもあるからだ。また、個人ごとに適正な睡眠時間も異なるだろう。いくら長くても中途覚醒が多いと排水が中断して効率的に老廃物を排出できないかもしれない。グリンパティックを活発にさせるのは深い睡眠だろうか、それとも体内時計によって活発になる時刻が決められているのだろうか。疑問は尽きないが、今後の研究でいずれ回答が得られるに違いない。

 人は1日の1/3~1/4を寝て過ごさなくてはならない。その理由についてはエネルギー消費量の節約だとか、記憶の整理と固定、免疫調整などさまざまな仮説が挙げられている。今回取り上げた「睡眠中の脳内清掃作業」も今後の教科書には間違いなく記載されるだろう。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。