第82回 枕が変わると眠れない、意外と大きな影響と対策

 覚醒度が高まりやすい体質を過覚醒傾向と呼ぶ。過覚醒傾向の有無を調べるスケールも幾つか開発されている。睡眠研究領域で最もよく使われるのは米国で作成されたFIRST(Ford lnsomnia Response to Stress Test)というスケールである。日本語版も作成されているので掲載した。

FIRST(Ford lnsomnia Response to Stress Test)
次の状況を体験したとき,あなたはどのくらい眠りにくくなると思いますか? 当てはまる数字1つに○をつけてください。(その状況を最近体験していなくても,当てはまると思う数字に○をつけてください)
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 当てはまる項目に〇をつけて点数を合計する。合計点数が23点を超えると不眠症の可能性が高い。ただし、22点以下でも点数が高いほど過覚醒傾向が強いといえる。「枕が変わると眠れない」程度の人も10点台後半になるだろう。

 先に挙げたストレス反応はすべて交感神経の緊張によってもたらされる。得点が高い人は「自分はストレスを感じやすい体質なのだ」と自覚して、眠りにくい夜、イライラや不安を感じた日は慢性不眠症の治療にも用いられている「漸進的筋弛緩法(ぜんしんてききんしかんほう)」を利用して交感神経の緊張を和らげてはどうだろうか。

 漸進的筋弛緩法では、まず椅子に浅く腰掛け、両足を肩幅くらいに開き、目を軽く閉じてリラックスする。首や肩などの筋肉に5秒間ほど力を込めて、その後20秒間ほどストンと力を抜いて血流が回復する感覚をゆっくりと感じるようにする。力を込める部位は、腹部、両手、つま先などでもよく、やりやすい部位を3、4カ所決めて3巡ほど行う。

 過覚醒傾向のある人では、うつ病のほか、高血圧や糖尿病、狭心症や心筋梗塞などの心血管系の病気にかかるリスクが高まり、すでに罹患している人では症状が悪化しやすいことも明らかになってきている。

 生体警告系は生存競争を生き抜くために必要な体の備えなのだが、安全が確保されるようになった現代人にとってはやや厄介な諸刃の剣にもなっているのである。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。